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第24話 先輩風を吹かせたいんです。

 俺は幻でも夢でもないよ。ちゃんとここにいて、ちゃんと、土屋のこと、好きだよ。 「……」  キスをした。触れて離れた唇をキュッと結んで、口から飛び出しそうな心臓を閉じ込めておく。  照れちゃって、すぐに俯いた俺には見れないけど、わかる。すっごい優しい顔でこっちを見つめてる土屋のことが。 「なんで、ゲイの俺がこんなにドキドキして緊張してんだ」  無音の部屋がくすぐったくて、向けられる視線にじっとしてることができそうになくて、文句みたいな口調になってしまう。 「ふ、普通はノンケの土屋が緊張するところだろっ」 「だから、普通じゃねぇって」 「普通じゃんっ!」 「普通なわけあるか」  俺ばっかが声荒げて慌ててる。  でも俺の方が先輩なんだぞ。ゲイ歴長いんだぞ。そっちこそ、ゲイとか同性とか初めてなんだからもう少し慌てろよ。ドギマギするとかさ。男と付き合ったことなんてないくせに。うろたえろ。キス、は今も、あと前にも、すでにしちゃったけど、それ以上のこととかさ。  そんで、これ以上のことはできるのか? 男初めてで、その、身体的に反応するの? っていう心配事をするしないの下りがあるんだぞ。フツーは。あと、えっと、色々確認を。 「……」 「須田?」  なんで、俺、こんなドキドキしてんだろ? 今までの経験値が意味なしになってる。初めてみたい。  なんで、こんな。 「須……」  土屋のこと好きなの?  目が合っただけですごく好きが増してくなんていうのは初めてなんだ。ほら、また好きになった。今、この瞬間、好きが増えた。 「須田」 「へ、わっ、うわああああ!」  担ぎ上げられて、慌てふためいた声を出したのは俺。 「ちょ! 何っ」  心臓、バックバクで、うろたえてるのも俺。  土屋は女の子より断然重いだろう俺のことを簡単に米俵みたいに担いで、ベッドの上にそっと下ろすと、微笑んだ。暴れた俺のせいで乱れた前髪を映画のワンシーンのようにカッコよくかき上げたりなんかしてさ。 「須田」 「な、な、にっ、……ン、ん」  不慣れな初心者なのは土屋、のはずなのに。 「ンんんんっ……ンくっ……ふっ……ン」  舌で口の中をまさぐられて、どうになかっちゃいそうだ。舌が絡まり合って、唾液が溢れて、ぴちゃくちゃとベッドの上で聞こえるキスの音に痺れる。逃がさないって抱き締められ、耳を掌で塞がれると、繰り返しほぐされる口内のやらしい音が頭の中で響いて、やだ、これ。どうにかなっちゃいそう。 「ンっ……ぁ」  キスだけで、感じてる。 「ぁ、土屋ぁ」 「今日は、ローションもゴムもないから」  力入らない。こんな甘いキス知らない。 「今朝までは須田に好かれてるとか思ってもいなかったから、用意なんてしてねぇよ。けど、悪い。嬉しくて、止まんねぇ」 「は? ちょっ、ンっ……っ」  土屋はこれが初めての男同士のあれそれなんだから、初心者らしい戸惑いを段階踏んでやってかないといけないのに。 「ぁ、土屋っ」  なんで、ローションとかゴムとか知ってるんだよ。っていうか、ローションはなくてもゴムとか持ってそうなのに。ほら、モテるだろ? だから、その。それってつまり。  なぁ、ゴム持ってないのってさ、最近はそういうのなかったの? 彼女とかさ、ゴムが必要なシチュとかさ。 「須田」 「ン、んんんっ」  またキスをしながら、触れられて、抱き締められる。緊張と、まるでこれが初体験みたいに戸惑って、不安げにぎゅっとしがみついた。 「ああああ、あの、あの、土屋? そ、そこっ」 「最後までしねぇから」  最後までって! 何言って。 「ぁ、ちょっ」  何言いながら、人のズボンを、それに自分のズボンも、何して、て、ぁ。 「勃ってる」 「んひゃあああ! バカ! 耳元で低音ボイスで話すな! そ、そっちこそ、その、俺で、その」 「勃つよ」  熱かった。 「な?」  手を引かれ触らされたそれは熱くて、硬い。 「っ」 「須田」  ちゃんと、俺で、反応してる。 「須田、俺の、触って」 「ぁっンっ……ちょあ! ぁ……熱いっ」 「須田のもすげぇ熱い、あと、濡れてる」 「ちょわあああああ! 言うなよっ、ン、ぁっ、やぁンっ」  須田のを扱きながら、自分のを扱かれて、ぎゅっと抱き締められて、心臓がおかしくなる。こんなに土屋の近くに来ちゃった。 「どーしよ、つち、や、っ……ンっ」 「須田?」 「さっき、ヒナさんに、さ、誘われ、たんだ。その、気に入ったからって。仕事、のことが、あるし、土屋に、迷惑かけたく、ない、からっ、やんわり断ったけど」 「……」 「けど、甘い香水の匂いが好きじゃなくて、ねっとりしてて、なんか、イヤだったんだ」  甘い甘い香りは重くて、クラクラして、鼻に残る感じがいやだなぁって、好きじゃないなぁって思った。 「ぁ……が、いい」 「須田?」 「土屋の匂い、好き」  ぎゅっと抱き締めてもらってるけど、もっと、もっと近くがいい。自分から身体を擦り寄せて、鼻先を土屋のシャツに押し付けた。そしたら、いっぱいになるんだ。土屋に感覚も身体も本当に丸ごと抱っこされてる気分になる。 「好き、この匂い、気持ち、イイ」  落ち着くけど落ち着かない。眠ってしまいそうなくらい心地良いけど、じっとしてられない。 「土屋、好き……ぁ、ちょっ、つちっ、ぁ、やだ、それっ」 「……」  大きな手で俺の手ごと二人のペニスを握り締められて、上下に扱かれて、擦れ合う気持ちよさと、包み込まれる感じとそれと、甘い香水よりもずっと好きな土屋の匂いと、全部が好きでどうになりそう。 「ぁ、ンっ……ンっ」 「須田」 「ひゃあぁ! ぁ、ダメ、イくってば」 「好きだ」 「ぁ、ひゃ、ぁ、んんんんんんんんっ」  クラクラした。キスしながらきつく扱く大きな掌の中でイかされて、イく瞬間、まさぐられる口の中が熱くて、濡れてて。  こんなキス初めてした。土屋のこんな顔初めて見た。 「ぁっ……ン」  落ち着くけど落ち着かない匂い、ずっと居座りたいのに、暴れ出したくなる。どっちが同性恋愛の先輩なのかわからないくらい、俺はただ必死にになって、ぎゅっとしがみ付いていた。

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