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第29話 まだ、前準備のあれこれ

「バカ」  こんな優しくバカって言われたことないよ。  呆れたような溜め息つかれて、でも、ぎゅっと抱き締められてるから、今、土屋がどんな顔をしてるのかわからないのに、嬉しくなっちゃうなんて、こんなの初めてだよ。 「セックス、するんだろ」 「……だから、だよ」  ぎゅっと抱きついて、顔が見えないように土屋の懐に入り込んで、そんで、説明する。 「ちゃんと、柔らかくしとかないと、はい、はいらない、し」 「わかってる。ローション使うんだろ」 「う、ん」  コクンと頷いた。  この前はなかったから、触るだけ。でも、今回は買ってきたから。一緒に、薬局で買ってきたから。 「……」 「須田?」 「やややややや、やっぱり、俺がしてくるからっ!」  急に、なんかビビった。  けっこう生々しいと思うんだ。女の子相手にするのとは違うじゃん? それこそほぐすのとかさ、使う場所が場所なだけに。お尻の穴、だからさ。 「あらっ、洗ったりとか、する、からさっ! さすがにそれはあんま見せないっていうかさ、だから、洗うのも、ほぐすのも、慣れてるからっ! 俺、やってくるから! ちょっぱやで! あ、いや、早くはできないかな、久しぶりだから、でも、ヘーキ! 待っ!」  声、出ちゃうとこだった。ひゃああああ! って、おかしな、色気も何もない声が。半泣きになりそうで、頭の中が今、すごい慌ただしくなってて、わけわかんなくなるギリギリんとこ。 「ギリ……」 「土屋?」  それは、まるで俺の胸のうちを読み取ったみたいに、言葉が重なった。ギリギリ、逃げ出さずにいれる。 「ギリ、冷静さを保ってる」 「え?」 「当たり前だし、俺も初めてじゃねぇから、人のこと何もいえないけど、それでも、おまえの言葉にモヤる」 「? あの」  ぎゅっと抱き締める腕の力が強くなって、息が苦しくなった。モヤるって、俺の? どの言葉に? 「ほぐすのも、洗うのも、慣れてるっつっただろ」 「……」 「今までに誰かとセックスするのに洗ってほぐしたことがあんだな、とか、でも、久しぶりっつってるって事は、最近はねぇんだ、とか。この前、須田の元彼見たけど、あいつも、あんだな、ここ、とか」 「んひゃあああああ!」  出ちゃった。またもや変な、色気ゼロの声が。だって、いきなり、尾てい骨から孔のところを指で触られて、びっくりすんじゃん。  突然すぎて、身構えるのも忘れて出た素っ頓狂な声に自分で驚いて、顔をあげてしまった。 「ギリ、冷静さを保ってた」 「っ、なんで、過去形」  顔を上げたら、イケメン土屋と視線が、ぶつかりそうなほどバチッと当たって。 「ギリ保ってた理性がぶっ飛んだから」 「ン、んんっ」  キスに蕩ける。 「んあっ……ふぁ……ン、くっ」  舌を絡められて、いきなりの深くて、中をまさぐる感じがやらしくて、気持ち良くて、土屋に撫でられたお尻のところが敏感になる。 「須田の顔見たら、ぶっ飛んだ」 「っ」 「シャワーんとこでいいか?」 「あ、あの、あのさ」  理性ぶっ飛んでくれたのかな? 土屋がシャツを脱ぐのをすごくもどかしそうにしかめっ面だった。 「あのさ、さっき、土屋が言ってたじゃん?」 「?」 「初めて、じゃないって。それって、俺以外の男と、したことある、の?」 「は、はぁ? ねぇよ」 「え、ないの?」  そう言ってただろ? 初めてじゃないってさ。なんだろ、俺も戸惑うんだけど。まさか、ここで自分がモヤるなんてさ。童貞食いじゃないけど、でも、たしかに今モヤったんだ。ノンケの土屋がって、すごく胸のとこがチクッてしまった。 「須田?」 「ごめ、嬉しくなっちゃった。なんか、土屋の初めて同性相手、っていうか、その、男でさ、抱いてもらえるって思ったら、すご、嬉しい」  喜んでしまう。 「ねぇよ……」  またぎゅっと抱き締められたけど、今度は素肌の胸でさっきよりもドキドキが増していく。 「だから、教えてくれ」  本当に土屋の初めてなんだ。 「お前とするセックスの準備、俺に教えてくれ」  だって、素肌の土屋の鼓動はさっきよりも速くて、慌しかったから。 「あっ、はぁっ」 「須田……」 「ぁ、んんんんっ」  中を指でまさぐられて、さっきのキスみたいに身体が柔らかくなっていく。 「ぁ、ンっ」  バスルームに響く自分の甘い声と、ローションを塗り込められる濡れた音。耳に届くその音以上に、土屋がたまに呼ぶ俺の名前にゾクゾクした。低くて、掠れてて、少し呼吸が乱れてる声。 「ン、そこっ」 「ここ?」 「やぁぁっ」  指に気持ちイイところを攻められて、バスルームのタイルについた自分の手に重なる土屋の手に縋ってしまう。甘えるみたいに指をぎゅっと握って、背中を反らして、中をほぐす指に身悶えてる。 「ン……つち、や、ぁ……」  ど、しよ。これ。 「あ、やだっ」 「須田」 「やぁ……ン」  セックスの準備してるだけなのに、もうこんなに気持ちイイなんて、どうしよう。 「ン、ひゃああっ」  大きな手が俺のお尻を覆うように重なって、長い指に前立腺を擦られて、こんなに前を濡らしてる。 「ぁ、ダメっ、土屋っ」  手の甲を噛んでないとおかしくなりそうなんだ。 「土屋、あの、さ」 「あぁ」  土屋の指が気持ちイイ。長くて、骨っぽいその指に中を擦られてイっちゃいそう。二本に増やされて、思わず甘い溜め息を零すくらい。 「……」 「俺も、初めて、だよ」  もう、イっちゃう。 「する前、準備で、こんなになっちゃうの初めて」 「……」 「だから、もう、して欲しい」  お願い。 「土屋の、欲し……」  手を重ねながら、もう片方の手で後ろにいる土屋のを撫でたら、すごく硬くて、熱くて、触っただけで溶けたくなるほどだった。

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