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第30話 小さな告白
二人分の重みに少し沈むベッドのスプリング、それのわずかな揺れに、なんかこのあとすることを実感する。でもさ――。
「須田……」
なぁ、土屋わかってる? 今から、俺たちがすること。
「……須田?」
そう思ったら、急に胸のところがツンと痛くなった。
男同士は前準備が必要だって話したろ? 洗って、ほぐして、そんで、こんなふうにバスタオル敷いておいたほうがいいんだ。色気ないだろ? ムードとかなくてさ、なんかリアルな感じがしない? 女の子とする時みたいな色っぽさがなかったりするでしょ?
「俺とセックス、するの?」
そんな言葉が今更込み上げて来たあれこれ色んな不安を紐でくっつけて、口から飛び出した。そして、言ったそばから怖くなって、素肌の土屋の腕をぎゅっと掴んでしまう。
「女の子じゃないよ? 面倒だったでしょ? それに、俺ら仕事仲間だしっ。その、色々支障をきたすんじゃないかなって思うんだ。別れたい、とか…………」
言葉を一度飲み込んで胸のところに押し留める。
「俺、あんま長続きしたことないんだ」
「……」
「いっつも振られる」
どのくらいかな。でも半年ももたないよ。毎回そう。きっと三ヶ月くらいが妥当なじゃない? ちょうど交際で落ち着いてきた頃? そのくらいで毎回そうなんだ。
「他に好きな人ができる。飽きられちゃうんだ」
「……」
「だから、そのっ」
「あのなぁっ!」
押し倒されて、肩を強く掴まれ、大きな声にびっくりして、顔を上げたら、怒った顔の土屋がいた。
「バカだろ」
バカだよ。この土壇場に来て、やっぱり躊躇うバカなんだ。
「理性ぶっ飛んだって言っただろうが、それでも必死に暴走しないようにしてんだろうが」
「ぼっ……」
「面倒じゃねぇよ」
「で、でもっバスタオル敷いてとか色っぽい感じじゃないし、俺っ」
「人の理性ブッ壊しておきながら、何言ってたんだ」
「けどっ、お尻だよ? 土屋の、挿れるとこ、おしっ」
「うっせぇ」
いいの? なぁ、土屋。
「無駄な抵抗だ」
俺としちゃって。
「好きだ、須田」
「……」
「だから、セックスしてぇっつってんだろうが」
いいんだ。
「俺も、土屋のこと、好き」
好きだから、セックスしたい。ただ、それだけのこと。
「だから! あんま、煽るなっ」
「ここ、だから」
自分で脚を広げて、孔のところを指でなぞった。場所わかんないかもしれないだろ? だから、言わないとって。
「……お前なぁ」
「? 土、ぁっ、ンっ」
組み敷かれて、孔をなぞった指に熱いのが当たって、心臓が飛び出そうになった。触れた土屋のが、指で示した俺の孔を抉じ開けていく。
「ぁ、ンっ……」
「っ」
大きくて、太くて、硬くて、そんで、すごく熱い。
「ぁっ」
「痛く、ないか?」
「へ、き」
割り開かれていく。抉じ開けられて、広がって、体の中に土屋が来て、息するのが苦しいくらいの大きさ。中が溶けちゃうくらいの熱さ。
「あ、あ……土屋の」
俺の中に土屋がいる。
「おっき、ぃの、嬉し、ぁ、ン、んんんんっ」
ちゃんと反応してくれるのが嬉しくて、手を伸ばして、孔に突き刺さるペニスの根元を指でちょこんと触ったら、グンと奥にその根元まで押し込まれて、そのままイってしまった。
「あ、やだ……土屋、見ちゃ」
白いとろりとした精液を自分のお腹の上に垂らして、それに土屋がびっくりした顔をしたから、慌てて隠そうとしたんだ。出ない、もんね。女の子ならさ、だから。
「あ、ンっ……土っ、あっ、あぁっン」
でもその手でお腹に吐き出した白を隠すことはできなかった。掴まれて手を繋いだままベッドに縫いつけられるようにされ、そして、根元まで突き刺さったペニスが動き出す。
「あ、やぁっ……ン、ぁ、土屋、ぁっン、おっきぃ……ン」
「ふざけんな」
「ぁ、ごめ、土屋っ」
揺さ振られて奥を突かれて、孔がきゅうんと欲しがって疼くくらい、腰を引かれ、また欲しがった分だけ甘く貫かれる。
「あぁぁぁっ」
「逆に飽きるほうがすげぇよ」
「ぁ、んっ……深いっ、土屋、そこ」
ずぶずぶに深くまで来て欲しい。ずちゅぐちゅってやらしい音させるくらい、たくさん中擦って欲しい。
「あ、あぁぁぁっ」
「っ」
「土屋、は? 気持ちイイ? 俺の中、ヘーキ?」
腰を自分からもくねらせてペニスをぎゅっと締め付ける。
「あんま、煽るなっつってんだろっ」
「な、んで、煽るっン、ぁっ、あンっ」
脚をもっと広げて自分の胸にくっつけるようにすると、突かれる度に足先が跳ねた。
「土屋がたくさんほぐしてくれたから、俺、すごく気持ちイイ、よ。トコロテンしちゃった、もん。柔らかい? 俺の中、で、気持ち良くなれ、る?」
平気かな。平気だったら嬉しいな。
俺はすごく気持ちイイけれど、土屋もそうだったら、幸せだな。
「ぁ、ン、土屋、ぁっ、やぁぁっン」
「須田……」
汗がにじむ額すらカッコよかった。はぁ、はぁ、と雄の乱れた呼吸を繰り返しながら合間に掠れた声に名前を飛ばれるだけで身体も気持ちもキュンキュンした。ベッドについて体重がかからないようにしてくれる腕も、逞しい肩も、力強い律動も、全部が好き。
「あ、あぁっ、ン、ぁっンっ……土屋っ、ぁ、あ、あぁっ、ン」
「色気、ない、だっけ?」
「ぁっ」
グングンと激しく奥まで攻められながら、耳下に零される溜め息にすら感じてしまう。
「どこがだよ」
「っン、ぁ、そこ。されたらっ」
「すげぇ……っ」
怒った顔も、呆れた顔も全部。
「須田、ホント」
「ぁ、ン、そこ、たくさんして、奥も全部、ぁ、ン気持ち、ぃ……」
「好きだ」
土屋の全部が大好きだよ。
「っ、ン、ィく……土屋」
「っ」
「ぁ、あっ、ぁっ…………ン、んっ……ンん」
名前を呼んで、ぎゅっと抱き締めたら、目が合った。どきっとするほど真剣な眼差しにも射抜かれて、中が土屋を締め付けた瞬間、深いキスと、深い繋がりに、感極まってた。
「ぁっ……ン、好き」
小さな声でする小さな告白だったけど、ゼロ距離にいる土屋は嬉しそうに笑って、キスで答えてくれたんだ。
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