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第38話 棚買い、大人買い

 それはそれは見事なツーショット。  長身なだけでなくモデル体型のふたりが並んで話す姿は、どこかで撮影でもしてるんじゃないかと思うほど一般人とは違ってる。カップルですと百人の人に話したら、そのうちの何人がそんなわけないと答えるのか。  そのくらい絵になる美男美女のツーショット。  前にも一度、この光景を見て、俺は怯んだんだ。伸ばしかけた手を引っ込めた。あの時はあの甘い苺飴を俺は買わなかった。でも――。 「つっ、土屋っ!」  今は、買う。 「須田」 「ぁ、えっと、その、二次会、行く? よな?」  今は、めっちゃ買う。棚買いの大人買いして、独り占めする。 「二次会、福田が、行こうって言ってた。あ、場所はまだわかんないけどっ」  めっちゃ睨んでる。美人が睨むとこんなに迫力あるんだ。怖いし、美人だし、もしかして俺より背高い?  向こうにしてみたら、俺はお邪魔虫だろう。二時間の間ずうううっと狙ってた座席をテスト課のおっさんに取られてイラついてるんだから、とっとと二次会行きなさいよって顔をしてる。  けど、俺は食い下がるから。もうあの時みたいに手を引っ込めたりなんてしないから。 「行こうよ! 課長もめっちゃ土屋と話せて嬉しそうだったし。あ、っていうか、同期の福田も土屋と飲みたいと思うし、だから」 「いや、二次会は遠慮する」  やだ。俺は大人買いを。 「一緒にカラオケ行こうぜ。須田」 「へ? あ、あの」 「もう福田にはそう話してある。ほら、お前の鞄。帰るぞ」  そして手渡された俺の鞄。もうこれで俺はこのまますぐに退散できちゃうんだ。 「岸(きし)さんもお疲れ」 「えっ? 土屋さんっ!」  岸っていうんだ。人事の美人さん。  先を歩いて行ってしまう穂高を追いかけたいけれど、自分の荷物はきっと座席にあるんだろう岸さんがもどかしそうに顔をしかめる。 「須田!」 「あ、う、うん」  きっと、向こうにしてみたら、こんなちんちくりんの男と二人で飲むつもりなの? それ楽しいわけ? みたいな顔をしている。それでなくてもテスト課に彼女の興味をそそるイケメンで出来る男はいないだろうから、とても退屈な二時間だっただろう。 「行く! カラオケ!」  でも俺ももう譲りたくないんだ。何度も確かめて、俺はこの恋を選んだから。岸さんは美人で、たしかに穂高と並んだら、絵画のようにお似合いだけど。俺と穂高が並んだところで、そんな良い絵にならなくても、かまわず穂高を追いかけるって、もう決めてる。  頭がボーっとする。  息も唾液も全部飲まれるみたいなキスはまるで食べてるみたい。 「ンっ……ぁっ、ンくっ」  ほら、喉をゴクンと鳴らした。 「カラオケ、行くんじゃなかった?」  そう言ってあの岸さんからふたりで離れたのに、ここはカラオケじゃなくて、ちょっと怪しい飲み屋さんの非常階段んとこにいるんだけど。そんなとこでキスとかしちゃってるんだけど。酔ってるから、気持ちイイことに今滅法弱いんだ。 「ほ、だか?」 「行かない」 「カラオケ?」  あぁと頷かれてちょっとだけもったいないような気がした。きっと穂高の低い声で聞くラブソングとかすごそうじゃん。破壊力。腰砕けっていうものを体験できそうな気がする。 「わりぃ、セーブ無理で、キスした」 「あ、うん」 「外だし、その辺に会社の人いるかもしんねぇけど」 「あ……はい」  たしかに、男同士で外でキスはあまり宜しくないかもしれない。ゲイバーが並ぶ辺りでド深夜ならありだけれど、ここはまだ会社の最寄り駅。 「さっきの、すげぇ可愛かったから」 「? 俺?」 「岸から、俺をさらうとこ?」 「!」  一体どんな顔をしてたんだろう。必死な顔してた? 必死だったんだ。ビビってた? 相手があんな美人じゃ、凡人顔の俺は身構えるよ。緊張してる顔してた? ドキドキしたんだ。好きな人をああやって奪うことなんて生まれて初めてだったから。 「ぁっ」 「祐真?」  小さく声をあげると、何か忘れ物をしたのか? と、穂高が心配そうだった。 「俺、いっつも二股で別れられちゃうけど、初めてだ」 「は?」 「絶対に、離したくないって、そう思ったの」  いつも諦めてた。向こうの心が離れたんなら仕方ないって思ったし、言われて、俺は抗うこともせず、すっと手を離してた。離せてた。けど、今はそれできない。 「穂高が初めて」 「あっ、ンっ……ぁっ、ほ、だかぁっ」  抱き締められて、自分の体重も使って、奥深くまで突き刺さる穂高のペニスに溶かされそう。 「あっ、はぁっン、あンっ」  ぎゅって抱きついて、ベッドの上に座る穂高に跨って、脚を大胆に開いて、そこから見えるやらしいトコに身体がきゅんって疼く。 「あぁぁぁっ」 「ったく」  理性がほろほろと消えていく。 「ン、ぁ、穂高の、大きい」 「お前のせいだろっ」 「あ、あぁぁっン、そこ、深いっ、ひゃ、あっ」  奥をグリグリされながら、乳首を齧られて、思わず髪がぐしゃぐしゃになるのもかまわず穂高の頭を抱き締めて。これじゃ、自分から乳首をかまって欲しいみたいだけど、でも、ダメなんだ。 「ぁ……ン、気持ちイイ」  無意識にそんなことを呟きながら、自分で好きなとこを穂高に擦り付けちゃうくらい、ダメなんだ。 「穂高」 「……」  カッコいい。さっき課長と話してるのをこっそり盗み聞きしてはドキドキしてた。淀みなく話す穂高の声はめちゃくちゃイイんだ。仕事の話をしてる時の穂高、俺はすっごい好き。真剣な横顔はいつまでも見てたくて、チラチラ伺ってしまう。 「なんだよ」 「……」  そんな出来る男な穂高に抱き締められながら、俺も抱き締めて、繋がって、トロトロでドロドロで。 「髪、ボサボサ」 「……祐真がしたんだろうが」 「あっン、そこ、すごっ……イっちゃうって」 「乳首も可愛がってやるから、イくとこ、見せて」  めちゃくちゃカッコいい男の髪をこんなにしちゃって。 「あン、や、一緒がいい。穂高も」 「あぁ」 「あ、あっ、あっ……あっンっ……っ」  こんなふうにやらしい顔、誰にも、どんな絶世の美女にだって見せてあげない。 「あ、ンっイくっ、穂高っ、俺、ィっ、ちゃっう…………っ」  イく瞬間の無防備で俺の中で暴れる本能むき出しの穂高を誰にも見せないと抱き締めた。

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