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第41話 仕事もちゃんとしております。

 広報へのメールはした。シナリオ部からのメールにも返信をした。キャラクターシートのほうはぜーんぶ確認して整理してある。 「……よしっ」  データは持った。スケジューリングの遅れなし。発注、受注、全て、完了。 「持田さん! ちょっと、テスト課へ行ってきます! そんで、そのあと、営業と外出してきます!」  いつもは静寂に近い静かな職場に響く俺の声に、ブリ子がぽかんとしてた。  そして、俺は手を元気に振りながら、古巣であるテスト課へと向かう。しっかりとした足取りで、まるで行進のように突き進む。 「こんちはー」 「あ、須田だぁ」  つい笑顔になってしまう。その笑顔の理由をあっちこっちに言いふらしたい。 「あ、これ、パズルゲームの動作確認の、ごめん。訂正印もらってもいい?」 「あいよー」 「テスト課、どう? 最近」 「んー、まぁぼちぼち。って、何か言いたいんだろ? めっちゃニコニコ顔じゃん」  わかる? わかっちゃう? そうなんだ。できたんだ。ついに。 「まさか、彼女できたとか?」 「はっ、はぁぁぁ?」 「あ、真っ赤。マジできた?」 「で、できてない! できてないってば!」  違う違う。できたけど、できたのはそっちじゃなくて。いや、彼氏ならできてるけど、それは関係なくて。 「そうじゃなくてっ」 「えー? マジで? 最近、けっこう付き合い悪くない? 前はもう少し夕飯一緒にとかあった気がすんだけど。あ、もしかして、もう部署変わったから、俺なんて見捨てちゃうんだ」 「ちがっ!」 「はぁ、須田はそんな奴なんだな」 「違うってば!」  たしかに、前はもう少し一緒に夕飯に行ったりしていた。会社の帰り、毎日コンビ二弁当じゃあれだし、同じ歳、同期で、やっぱりこの業界に入ってきたから、ゲームは好きなわけで。仕事関係なしに、一緒にゲームをしたりもしてた。勉強会とかいいながら、ファミレスでさ。 「これから、ヒナさんとこに行くんだ」 「あ! 須田イチオシの神絵師?」 「そう!」  そうなんだ。できたんだよ。ついに! できちゃったんだ! キャラクターデザイン、全キャラが今日完了する。このあと、追加で、キャラを入れていきたいなぁって穂高とは話してるけど、それはゲーム開始の時の中にはいない、隠しキャラ的な感じになるだろうし。だから、それは追々ってことで、考えてる。 「キャラデザ、とりあえず完了するんだ」 「へぇ」  ヒナさんが一番多くデザインしてくれた。その途中にあったパソコンの不備の関係もあって少し遅れての上がりになったけれど。今日できた。  キャラデザが終われば、ビジュアルが整うわけで、そしたら今度はゲーム音楽のほうへと工程が進んでく。 「……なんか、すごいな」 「うん! 俺もめっちゃ感動してる」 「そ……かぁ……」 「福田?」 「んで? なんだっけ? あ、パズルゲームのね。これ、すっげぇ不具合連発だったんだけど。大丈夫? って、ギョウカンはそこんとこは知らないよな。はい。これ、ハンコ」  そうなのか。パズルゲーム、バグとか、そうだよな。俺らも気をつけなくちゃ。いつかこのテスト課にゲームの確認を頼む日がやってくるからさ。 「あ、うん。ありがと」 「けっこうスケジューリングタイトだから、プログラミングのとこ、しんどかったじゃない?」 「え? そうなの?」 「たぶんね。ギョウカンって日数の調節はあんましないもんな」  言われて、ちゃんと目を通すとたしかに、どれも一日か二日くらい足りてないように感じられた。 「まぁ、一課の課長が、だもんな」 「一課……ぁ、営業の」 「そう。あの人、納期かなりタイト設定にするらしいじゃん? その影響で、テスト課も日にち削られてんの」 「え? そうなの?」  ギョウカンは納期の管理はするけれど、設定は顧客とのやり取りをする営業の仕事だ。だから、俺はその納期どおりにできるように管理をするだけの仕事。  今の課長、数字だけで判断するんだっけ。 「仕方ないっちゃ、仕方ないけどさ。スマホゲームなんて今の時代腐るほどあるし、そんなかで利益出すためには、ゲームの質も大事だけど、コスト削減も大事ってことでしょ」 「……」  そう、なのかな。でもさ――。 「ほら、福田、仕事。須田も頑張ってるみたいだな」 「あ、はい」 「土屋君と」 「はいっ」 「今の営業一課の課長は厳しいが、それも勉強になるはずだから、頑張れ、と伝えてくれ」  テスト課の課長はのほほんとしてる人で、職場の雰囲気も和気藹々としてた。けど、やっぱり、そのコスト削減がここにも影響をしているのか、立ち話をしているところで仕事へと急かされるなんてこと、ちょっとなかった気がする。 「はい……」  そんなに厳しい人なんだ。 「それじゃあな」 「……はい」  テスト課の面々も俺がいた頃とは少し変わっていたけれど、それだけじゃなく、なんとなく、笑顔が少ない。  もっと、笑いながら、ゲームを丁寧に仕上げようっていう感じの雰囲気が俺は好きだったんだけど、どこか急がされて、疲れているような空気を感じた。  大事なことだと思うよ。コストを減らすっていうの。会社だし、無駄は省くべきだと思う。けどさ、ゲームの質の高さあってこそのゲームじゃないの? 日数削って、人件費を削減したってさ、こうして最後のところに来て不具合連発じゃ、結局前工程に戻されるじゃん。なら、あまり意味はない気がするんだけど。  それとも、その不具合を出すことすら許してくれないような課長なんだろうか。 「ぁ……」  ゲームは商品だけれど、でも、人を楽しませるためのゲームなのに。 「土屋!」  メインエントランスのソファ、タブレットを膝において、難しい顔でタイピングをしている姿を見つけた。 「土屋?」 「……」 「つ……」  話しかけにくい、そんな怖い顔だった。  俺はさ。しかめっ面で作ったゲームは、しかめっ面しか生まないような、気が、する。楽しくない気持ちで作ったゲームは、きっと、人を楽しませることは、できないと、俺は、思うんだ。

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