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第11話 溝。

『今…なんて…?』 文月は彼の突然の告白に頭が真っ白になった。 『お前は男と付き合ってたのか?』 「…うん。」 『…どうして?』 水無月は、彼の質問の意図を理解したが、それを彼に告げるべきなのか迷った。文月に全てを話す勇気は持てなかったが、あの頃の自分の気持ちを否定する様な嘘はつきたくない。それは文月に対してだけでなく、自分自身に対しての裏切りでも有ると感じたからだ。水無月は意を決して彼の問いに答えた。 「その人の事がとても好きだったから…」 彼の答えを聞き、頭上から冷水を浴びせられたかの様に文月の身体中の熱は一気に冷めて行った。水無月は彼の身体から熱が去って行くのを見て、小さく溜息をついた。 少しの沈黙の後、先に口を開いたのは水無月の方だった。 「文月…俺とはもう、そういう気分になれないよね?このままだと風邪を引いてしまうから、一先ず浴室から出て服を着よう。」 『……』 (何故?何故お前はそんなに冷静で居られるんだ?俺はこんなにも動揺しているのに…) 水無月の落ち着き払った態度を見て文月は苛立ちを覚えた。 「…文月?」 『ああ…ちゃんと聞こえてる。俺はシャワー浴びてから出るから、先に出て着替えてて。』 自分を突き放す様な彼の冷めた口調に驚き、目を大きく見開いた。そして水無月は、言いたい事を我慢するかの様に口の端をキュッと結ぶと、何も言わず浴室を後にした。 文月は、浴室のドアが閉まった瞬間、水無月の心も閉ざされた様に感じた。 目を瞑り、熱いシャワーを浴びた。 (自分だって過去に恋人を持った経験ぐらい有る。水無月は何も悪い事はしていない。水無月が俺と出逢う前に誰と付き合っていようが、それを責める権利は誰にも有りはしない…分かってはいるんだ。だが…頭では理解出来ていても、感情が追いついていかない…聞かなければ良かった。聞くべきじゃなかったんだ…) 文月はシャワーを止め、雑念を振り払うかの様に頭を左右に激しく振り、浴室を後にした…

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