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第13話 想いに蓋をして。

マンションに帰り着いた水無月は、冷蔵庫からビールを取り出しリビングのソファーに腰を下ろすと、ビールを一口飲んでからテーブルの上の煙草を一本手に取り火を点ける。煙を深く吸い込み、ため息混じりにゆっくりと吐き出した。 (これで良かったんだ…文月は今まで男性と付き合った事がない。俺を好きだと言ってはくれたが、同性愛者なのかと問えばそれは違うだろう。彼は本来女性を好きな筈だ。) 水無月はビールを再び口に運び喉を潤しながら、彼と過ごした日々を思い返していた。 笑うと笑くぼが出来る彼の愛らしく無邪気な笑顔。人付き合いが余り得意ではない俺に、自ら距離を縮め寄り添ってくれた文月。仕事は出来るのにプライベートでは以外とドジなところ。悲しい映画やドキュメンタリーを観ると泣いてしまうところ。彼の全てが愛おしかった… (恋人と別れてから、もう誰かを好きになる日は訪れないだろう。そう思っていたのに…) 出会ってから僅か1年の間に、水無月の心の中は文月に占領されていた。 好きだからこそ、彼と恋人になってはいけない。文月には幸せになって欲しい。この想いは此処で終わりにしよう。彼の良い友人であり続ける為に… 水無月は自身に誓いを立て、ビールを飲み干すと、寝室へ向かった。ベッドに横になり、携帯に目をやる。怒りを露わにし、自分を責め立てた先程の文月の顔が脳裏をよぎった。 (泣いている俺よりも傷ついた顔をしてたな…) 携帯を手に取り、液晶画面をじっと見つめた。 (せめて、一方的に話を切り上げて帰ってしまった事だけでも、謝った方が良いのではないだろうか?) 水無月は彼に電話を掛けようか迷っていた。だが、同時に、自分の声を聞けば彼を更に苦しめてしまう事も分かっていた。 (友人として彼の傍に居る事を決めたばかりだろ?) 水無月は携帯電話を傍に追いやり、布団を頭から被って目を閉じた。寝室では、彼のむせび泣く声が長い時間響き渡っていた…… 文月は水無月が去った後キッチンへと向かい、料理を作り始めた。2人で一緒に食べる筈だった、ベーコンとトマトのパスタだ。 文月は出来上がったパスタをフォークでクルクルっと巻いて口に入れた。それは前日に練習したものより遥かに良い出来栄えだった。 『うん。美味い!』 文月はそう言って、パスタを口一杯にほうばった。 『水無月に食べてもらいたかったな…』 彼の名前を口にした途端に、一筋の涙が頬を伝い落ちた… 『友達としてなら、また遊びに来てくれるよな。。』 文月は自身に言い聞かせる様に呟きながら、止め処なく溢れてくる涙を、堪える事が出来なかった。 そして文月もまた、水無月への想いを抑える誓いを自分自身に立て、2人分のパスタを泣きながら食べ続けた…

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