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第14話 一目だけでも。

朝、目が覚めると瞼が嫌に重かった。水無月は洗面所で顔を洗い、鏡に映っている自分の顔を眺めた。 殆ど眠れず一晩中泣いたその顔は、直視出来ない程残念な仕上がりだった。 (瞼は腫れて顔も浮腫んでる…酷い顔だな…今日は会社を休んでしまおうか?出来る事なら、文月にこんな酷い顔を見られたくはない。でも、俺が休んだら、文月はきっと自分自身を責めるだろうな。明日は土曜日で会社も休みだ。部署が違うから一日中顔を合わせる訳じゃないし…) 水無月は、ピシャリと自身の両頬を叩いた。 (うん。大丈夫。) 彼はそう自分に言い聞かせ、身なりを整えいつもより30分早く家を出た。 水無月と文月は経営コンサルタント会社に勤めており、不動産・小売・飲食・サービス等クライアント企業の幅が広い。コンサルティング内容は、プロジェクトの提案だけではなく、実際にクライアント先まで赴き、集客の為の具体的な実践項目(アクションプラン)を定め、接客のロールプレイングの指導も行っている。 文月は、鞄等の販売店。 水無月は、飲食店を担当している。 水無月が家を出た時分、文月は会社近くのオープンテラスのカフェで朝食を取りながら、歩行者道路を行き交う人々を眺めていた。文月は1時間以上前からこのカフェに来ていた。 (いつもならまだ家に居る時間だ。水無月は出勤時に必ずこのカフェの前の道を通る。) 文月は腕時計に目を落とし、時間を確認した。 (まだ家だよな…) ほんの少しの時間でも良い。文月は彼に会いたかった。 (この時間に会えなかったら、部署も違うし下手したら一日中水無月に会えない。 アイツちゃんと眠れたかな…昨夜、彼が自分に向けて言った言葉と哀しげな表情が頭から離れない。) 「恋人にはなれない。友達でいよう。」 (水無月の心を傷付けたのは俺だ。自業自得だろ?どれだけ後悔しても、時間を巻き戻す事は出来ない。もし水無月が俺と友達ですら居たくないと思っていたら?彼が自分の傍を離れて行ってしまったら?) 文月は想像するだけで背筋が冷たくなり、冷や汗が出て来た。 (それだけは駄目だ。水無月の傍に居られなくなるぐらいなら、自分の気持ちをしまい込んだ方がマシだ。アイツの顔を見て伝えなければ。昨日はごめん。友達としてこれからも宜しくと…)

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