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第15話 親しげな男。

文月は2杯目の珈琲を飲み終え、席を立った。水無月が出勤して来る迄まだ大分時間が有ったが、昨夜遅くに2人前のパスタを平らげた文月の胃は、これ以上は無理と叫んでいた。彼は通りで水無月を待つ事にし、会計を済ませ店を出ると、愛しい人が通り過ぎて行くのを文月の視界が捉えた。 (水無月だ!) 彼に会えた嬉しさと同時に文月は戸惑いを感じた。文月は自身の腕時計に再び目線を落とした。 (やはり…水無月が毎朝此処を通る時間より30分以上早い。何故今日に限って…もしや、俺と顔を合わすのを避けているのか?それ程迄に嫌われてしまったのだろうか…) 困惑しつつも、足早に水無月の後を追う。彼との距離が近づき声を掛けようとしたその時、文月の後方から風が吹いた。その風の主が『みー!』と言いながら水無月を背後から抱きしめた。水無月は一瞬驚いた表情を浮かべたが、声の主の顔を向けると、直ぐに笑顔になり、文月は其れを見て足が止まった。 (この男は誰なんだ?何故水無月を馴れ馴れしくみーと呼んでいるんだ?) 水無月が自分以外の男と親しげに話す様子を目の当たりにし、文月は驚嘆と嫉妬で心が激しく揺さぶられた。水無月は尚も自分を強く抱きしめ続けている男の腕をそっと振りほどいて、彼に尋ねた。 「お前…どうして此処に居るんだ?」 『どうしてって…お前忘れたのか?』 「何を?」 首を傾げる水無月を見て、男は大袈裟に溜息をついて口を開いた。 『今日から本社勤務になったって、2週間程前に言った筈だけど?』 暫しの沈黙の後、水無月は電話で言われた内容を思い出し、頷いた。 「お前今日からこっちだったな。宜しくな。」 『やっぱり忘れてたんだな。俺はお前に会えるのを楽しみにしてたのに。』 男は両頬を膨らませ、拗ねた態度を取った。 「ごめんごめん。周が来てくれて俺も嬉しいよ。」 水無月の一言で周と呼ばれた男は先程迄の態度とは一変し、満面の笑みを浮かべた。 『じゃあ、一緒に出勤しようぜ』 そう言って水無月は歩き始めたが、周は未だその場から動かずにいた。 「周、どうした?行かないのか?」 周は水無月の傍に行き、耳元で囁いた。 『なあ…さっきから、俺の背中に鋭い視線を投げつけて来る奴がいるんだけど、あれって、もしかしてお前の知っている奴?』 水無月が周の後方に目を向けると、其処には訝しげに自分達を見つめている文月の姿があった…

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