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第17話 様子見。

「ああ、周ごめん。えっと…」 水無月は2人の顔を交互に見て、どう紹介したら良いのか躊躇っていた。そんな彼の様子に気付いた文月が先に話し始めた。 『初めまして、光谷文月です。水無月と同期入社で、彼とは部署は違いますが…』 そこまで言うと文月の口が急に重くなった。彼は一呼吸置くと、自分の想いを気取られ無い様、精一杯の笑みを浮かべて2人に告げる。 『彼とは…水無月とは親しい友人です。』 水無月は、昨夜自分が文月に告げた言葉を彼に返され、心の中で激しく動揺した。 (親しい友人…俺が先に彼に言った事じゃないか…動揺したら駄目だ。) 周は、文月が水無月の事を親しい友人と言った時に、水無月の表情が僅かに曇ったのを見逃さなかった。それに加え、2人がまるで泣き腫らしたかの様に顔が浮腫んでいる事にも気が付いていた。 (本当に只の友人なのか?2人の間にそれ以上の何かがある気がするが、暫くは様子を見るとするか…) 『初めまして、松永周です。今日から2人と同じ本社勤務です。久東水無月…みーとは、長い付き合いです。宜しく。』 周はワザと長い付き合いだと強調して、文月の反応を試した。文月の眉がピクリと動く。 (やはりな…) 周は手を差し出して文月と握手を交わした。 『みー、自己紹介は済んだし、そろそろ行こう。遅刻するぞ。』 そう言って周は水無月の手を引き歩きだした。 「あ。うん。そうだな…文月も一緒に行こ。」 『ああ…』 (周が水無月の手を引いている…) 文月は2人と歩きながらも水無月の手から目が離せなかった。自分以外の人間が水無月に触れているのを目の当たりにし、文月は苛立ちを覚えた。 『手…』 文月は小さな声で呟いた。 『え?』 『手を離してくれないか?』 文月は言うと同時に2人の手を振り解き、水無月を自分の元へ引き寄せた。 「…文月?」 文月の突然の行動に困惑した表情を浮かべた水無月を見て、文月は我に返り、慌てて彼から離れた。 『あ、いや…此処、会社から近いし、周りの人に誤解とかされたら水無月が困ると思ってさ。』 咄嗟について出た言葉だったが、嘘では無かった。 「そっか、ありがと。」 『そうだな。みー、俺が悪かった。ごめんな。』 文月の言葉を聞き周はバツが悪そうに謝った。 (文月って奴、水無月の事を全く知らないって訳じゃなさそうだ…友情かそれ以上の気持ちが有るのかは分からないが、少なくとも、みーを大切に想っているみたいだな…) 周は文月に向かって、口を開いた。 『みーの友達なら、これからも話す機会が多いと思うし、文月って呼んで良い?敬語も無しにしようぜ。文月、改めて宜しく!』 先程とは違い親しみのある笑顔で周は文月に挨拶をした。周の自分への態度の変化に戸惑いはしたが、彼の笑顔に嘘は感じられず 『ああ。周宜しくな!』 文月も笑顔で挨拶を返した。

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