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第18話 用意周到な彼。

「まずい…遅刻するぞ!」 水無月が腕時計を見やり、叫んだ。 『『えっ?』』 文月と周は、先程迄の険悪な雰囲気は何処へやら、水無月の言葉に声を揃えて反応した。 『出勤一日目で遅刻なんて洒落にならないな。みー、文月、走るぞ!』 今朝早く家を出た筈の2人が、周に付いて慌てて走り出した。 始業時間の少し前に会社に到着した3人は、息を整えながらエレベーターに乗り込んだ。 『周はどの部署に配属されてるんだ?』 文月が周にさり気なく尋ねた。 『俺?俺はね〜。みーと同じ部署!』 周は文月にしたり顔で答えると、今度は甘えた声で水無月に話し掛けた。 『みー。今日から暫くの間お前のマンションに泊まって良い?今朝、地元から直接こっちに来たんだけど、俺まだ住む所決まって無いんだよね〜。』 「ん〜。それは構わないけど…」 (何…今、コイツ何て言った?水無月のマンションに泊まるだと?水無月も構わないって言ったのか?俺以外の男と住むつもりなのか?そもそも今日から本社勤務する事を分かっていながら、住む所を決めていないなんて、コイツはなんて計画性が無い男なんだ! ) 2人は文月の内なる声に気付く気配も無く、会話を続けた。 『俺のマンションで暫くの間一緒に暮らすとしても、着替えとか身の廻りの物はどうするんだ?』 水無月が不思議そうに尋ねると 『ああ。それなら大丈夫。』 「大丈夫って?」 『明日の早朝にお前のマンションに届くように手配済みだから。』 周が得意気に水無月に答えた。 (何だと〜っ!前言撤回!コイツは計画性が無いのではなく、恐ろしく用意周到な奴だ!) 文月は周の言葉を聞いて、内なる声が叫びへと変わった。 「あっ。文月、着いたよ。文月?」 文月は水無月に服の袖を引っ張られ、自分が降りる階に着いた事にようやく気が付いた。 『えっ?ああ、じゃあな…』 文月がフロアーに降り立ち、エレベーターの扉が閉まろうとしたその時、周が文月に向かって声を掛けた。 『今夜みーのマンションで俺の歓迎会やろうぜ!文月も来いよな!』 「えっ?周の歓迎会?」 『えっ?みー、俺を歓迎してくれていないの?』 水無月は慌てて首を横に振り、答えた。 「いや。歓迎してるよ。そう言う事じゃなくて…」 『なら、決まり!じゃあ文月、今夜来いよ〜。』 呆気に取られた2人を尻目に自分の歓迎会を開く事を決めた周。 『あ、うん…じゃあ、今夜な…』 文月が答えるのと同時にエレベーターの扉が静かに閉まった。

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