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第19話 揺れ動く心。

周は本社に引き抜かれる程仕事が出来る男だ。元来の人懐っこい性格もあってか、移動したのが初日とは思えない程、直ぐに皆と打ち解け、退社時間になる頃にはすっかり部署の一員として認められていた。 仕事が終わりマンションに着くと水無月と周は一緒に夕食を作り始めた。少し前に文月から連絡があり、仕事が立て込んでいる為、此方に着くのは1時間程遅れるとの事だった。 周が得意のホワイトソース掛けのオムライスを調理している間、水無月は彼の傍に並んでサラダの盛り付けをしていた。周はフライパンから目を離さないまま、さり気無い口調で水無月に話し掛けた。 『なあ…』 「ん?」 『文月ってさ…』 「うん?」 『…みーの恋人?』 暫しの沈黙の後、周が尋ねた問いに水無月が答えようと口を開いたが、周がそれを遮る様に再び話し始めた。 『あ〜〜。やっぱり言わなくて良いや。みーに恋人が居たとして、其れが誰であってもお前が笑顔でいてくれるなら、俺は構わない。』 周の言葉を聞き水無月は俯きながら小さな声で呟いた。 「周…ごめん…ね。」 『謝るなって!俺とお前の仲だろ?只…誰かに話を聞いて貰いたい時は、俺が傍にいる事忘れるなよ。』 周はフライパンの火を消して水無月の方を向くとニカっと笑った。水無月は堪らず周に歩み寄り、彼の胸に顔を埋めて咽び泣いた。水無月の体温を布越しに感じ、彼の柔らかな髪が胸元を擽る。周は気持ちが昂ぶり胸が踊った。駄目だと分かっていながらも、水無月を抱き締めたくて、彼の背中に腕を伸ばそうとしたその時… 「ピンポーン」 玄関のチャイムの音が鳴った。 周は小さな溜息を一つ吐くと、水無月に気取られ無い様にそっと腕を下ろした。

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