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第28話 愚かな自分。
彼に真意を悟られない様、軽い口調で尋ねる。
「文月、それでも良い?」
『本気か?』
「うん。駄目?」
『お互い束縛はしないんだな?』
「うん。」
『好きな人が出来る迄で良いんだな?』
「うん。」
文月が射抜く様な目をして俺を見つめている。
『後悔しないか?』
俺は彼の問いに笑みを浮かべて答えた。
「後悔なんてしない。」
『…分かった。お前がそれで良いなら。俺達、セフレになろう。』
「うん。」
『いつにする?』
「え?」
『セフレ。いつからにする?』
(いつから?そっか…恋人じゃないんだもんな…)
「来週の土曜日、文月の部屋に行った時に決めるって事でどう?その時に要望も有れば聞くから。」
『分かった。そうしよう…今日は帰るよ。』
「うん。」
文月は小さな溜息を一つ漏らし『おやすみ。』
そう言って俺の唇にキスを落とすと、部屋から出ていった。玄関の扉が閉まる音がして、水無月は寝室のドアにもたれ掛かったままその場に蹲った。
(泣いちゃ駄目だ。周が起きてしまう。分かっていても自分の愚かさに涙が勝手に溢れ出る。)
「うぅっ…」
下を向き、泣き声が漏れない様に自身の腕を噛んだ。不意に身体を引き寄せられ、水無月は顔を上げると、周が哀しそうな笑顔で俺を見つめていた。
「周、いつから、起きてたの…?」
『んー。文月が、みーにキスした時。』
「俺達の会話…」
周は決まりが悪そうに肩を竦め答えた。
『うん。ごめん。全部聞いてた。』
「周…」
『みー。俺の前では我慢なんてしなくて良いんだ。泣きたいだけ泣けよ。』
(優しくなんてしないで愚かな俺を罵ってくれれば良いのに…性懲りもなく過ちを繰り返そうとしている俺を突き放してくれれば良いのに…)
「周、うっううっ…ごめっ、ごめん。俺っ…お前に心配を掛けてばかりだ…」
周は水無月を抱き締め頭を撫でながら、語り掛ける様に囁く。
『俺に謝る必要なんてないさ。そうだろ?』
「俺っ、俺は…」
『みー、話したいなら今度聞くから、今は何も言わなくて良い。』
周は水無月を抱き上げベッドに寝かせ、隣に寄り添い、彼の頬を伝う涙を唇で吸い取った。
「周…」
『俺が傍に居るから。余計な事を考えずに眠れよ。』
周は水無月を自身の胸に引き入れると、そっと包み込む。
「周、ごめん…」
周は言葉に答える代わりに、彼の髪を優しく梳くと、水無月は周の胸の鼓動を感じながら、穏やかな眠りに落ちて行った。
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