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第30話 あの頃の様に…

『みー、起きて。』 「ん…もう少しだけ。」 『お前が好きなチーズオムレツ作ったぞ。』 水無月はチーズオムレツに反応して、寝惚け眼のままベッドから這い出る。 『先に顔洗って来いよ。』 「んー。」 洗顔を済ませ、リビングに入ると食欲を唆る匂いが鼻腔を擽る。食卓には、水無月の好きなチーズオムレツ・トースト・サラダ・うさぎ型にカットされた林檎が並んでいた。 『ホット?アイス?』 「ホット。」 『了解。』 珈琲サイフォンの音が響く。周はカップに珈琲を注ぎクリープと砂糖を落とし入れると、スプーンで掻き回し無月に手渡した。 『ん。』 「ありがとう。」 『食べよう。』 周が向かい合わせの椅子に座ると、2人は手を合わせ同時に口を開いた。 「「頂きます。」」 『この前オムライス食べたのに、チーズオムレツって。どんだけ卵好きなんだよ。』 「周が作ってくれる料理が美味しいのがいけないんだ。」 チーズオムレツにナイフを入れると中からトロトロの卵とチーズが顔を出し、水無月は嬉しそうに口に頬張る。水無月の笑顔につられ、周の顔からも自然と笑みが溢れた。 『みー。』 「ん?」 『付いてるぞ。』 「何が?」 『オムレツが。』 文月は手を伸ばすと、水無月の唇の端に付いているオムレツを指の腹で拭い、それをゆっくりと舌で味わった。 「なんか、いやらしい。」 『俺とのキス思い出した?』 「っつ。思い出さない!!」 水無月は頬を膨らませ怒った顔付きをしたが、周がフォークでチーズオムレツを彼の口元へ運ぶと、途端に顔を綻ばせ口に頬張った。 『ふっ。』 「なんだよ?」 『みーは本当に可愛いな。』 「俺は男だぞ。可愛いなんて言われても嬉しくない。」 『ふふっ。』 「笑うなよ。」 『ごめん。ごめん。』 「笑ってないで、お前も食べろ。美味しいぞ。」 『俺が作ったんだけど。』 「知ってる。」 『くくっ。朝から笑わせるなよ。』 「周が勝手に笑ってるだけだ。」 『くくっ。そうだな。』 (水無月と過ごす穏やかな時間。昔に戻った様な錯覚に陥る。あの頃の様に…この幸せな日常がずっと続いてくれたら良いのに…) あの日から1週間が経っていた。周も水無月も互いにあの夜の話題に触れられずにいた。 明日は土曜日。水無月が文月のマンションに行く日が訪れようとしていた…

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