30 / 112
第30話 あの頃の様に…
『みー、起きて。』
「ん…もう少しだけ。」
『お前が好きなチーズオムレツ作ったぞ。』
水無月はチーズオムレツに反応して、寝惚け眼のままベッドから這い出る。
『先に顔洗って来いよ。』
「んー。」
洗顔を済ませ、リビングに入ると食欲を唆る匂いが鼻腔を擽る。食卓には、水無月の好きなチーズオムレツ・トースト・サラダ・うさぎ型にカットされた林檎が並んでいた。
『ホット?アイス?』
「ホット。」
『了解。』
珈琲サイフォンの音が響く。周はカップに珈琲を注ぎクリープと砂糖を落とし入れると、スプーンで掻き回し無月に手渡した。
『ん。』
「ありがとう。」
『食べよう。』
周が向かい合わせの椅子に座ると、2人は手を合わせ同時に口を開いた。
「「頂きます。」」
『この前オムライス食べたのに、チーズオムレツって。どんだけ卵好きなんだよ。』
「周が作ってくれる料理が美味しいのがいけないんだ。」
チーズオムレツにナイフを入れると中からトロトロの卵とチーズが顔を出し、水無月は嬉しそうに口に頬張る。水無月の笑顔につられ、周の顔からも自然と笑みが溢れた。
『みー。』
「ん?」
『付いてるぞ。』
「何が?」
『オムレツが。』
文月は手を伸ばすと、水無月の唇の端に付いているオムレツを指の腹で拭い、それをゆっくりと舌で味わった。
「なんか、いやらしい。」
『俺とのキス思い出した?』
「っつ。思い出さない!!」
水無月は頬を膨らませ怒った顔付きをしたが、周がフォークでチーズオムレツを彼の口元へ運ぶと、途端に顔を綻ばせ口に頬張った。
『ふっ。』
「なんだよ?」
『みーは本当に可愛いな。』
「俺は男だぞ。可愛いなんて言われても嬉しくない。」
『ふふっ。』
「笑うなよ。」
『ごめん。ごめん。』
「笑ってないで、お前も食べろ。美味しいぞ。」
『俺が作ったんだけど。』
「知ってる。」
『くくっ。朝から笑わせるなよ。』
「周が勝手に笑ってるだけだ。」
『くくっ。そうだな。』
(水無月と過ごす穏やかな時間。昔に戻った様な錯覚に陥る。あの頃の様に…この幸せな日常がずっと続いてくれたら良いのに…)
あの日から1週間が経っていた。周も水無月も互いにあの夜の話題に触れられずにいた。
明日は土曜日。水無月が文月のマンションに行く日が訪れようとしていた…
ともだちにシェアしよう!