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第32話 いつもの2人。

仕事終わりに最寄り駅から2駅先に降り立ち酒店で差し入れ用のワインとツマミを幾つか見繕った。店長の住まいへと向う道すがら、今朝の一件が尾を引き、幾分ぎこちなさが残っていた2人は、互いに話し掛けられずにいた。 沈黙に耐えかね、周が先に口を開く。 『なあ。』 「ん?」 『今日何人ぐらい来るんだ?』 「10人ぐらいじゃないかな。」 『店長ってどんな感じの人?』 「んー。普段はおっとりとしてるけど芯がしっかりしてて、いざって時には行動力が有るし、頼りになる人だな。」 『親しいのか?』 「惠さんと?店長の名前まだ言って無かったよな。葛西 惠 (かさい けい)さんだよ。そうだな、親しくさせてもらってる。」 『下の名前で呼んでるのか?』 「うん。河泉は俺が初めて担当を任せてもらった店で、去年入社して間なしの時だったから1年以上の付き合いになる。歳もそんなに離れてないし、プライベートでも偶に一緒にメシ食ったり飲みに行ったりしてるよ。」 『惠さんって何歳?2人きりで会ったりしてるのか?』 周の心配そうな顔付きを目にして、水無月は思わず吹き出しそうになる。 「さっきから質問責めだな。」 (下の名前で呼んでるだけでなく、プライベートでも会ってるなんて聞いたら、そりゃ気になるだろ。って言いたいところだが、止めておこう。) 『そ、そうか?』 「惠さんは俺達より3歳上だから今年27歳かな。2人きりの時も有るし、担当になってから知ったんだけど、俺が4年生の時に同じ大学で1年生だった後輩2人があの店でバイトしてるんだ。そいつらと一緒の時も有るよ。」 『ふーん。』 更に突っ込んだ質問をしたかったが、又気まずくなるかもと思い直し口を噤む。水無月は周の様子に気が付き、彼の顔を覗き込むと、視線を逸らす周に笑顔を向けながら、彼の不安を払拭する言葉を口にした。 「惠さんとはそんなんじゃないよ。」 『っつ。まだ何も言ってないだろ!』 「聞きたそうな顔してたぞ。周は心配性だな。」 『そ、そんな事ないっ!』 「そう?」 『そうだ!』 「ふふっ。そういう事にしておいてやるよ。」 (ったく…普段は鈍感な癖に!そっか、店長とは何も無いんだな。) 周はそっと胸を撫で下ろし、一歩前に足を踏み出すと『ほらっ、遅れるぞ!』水無月の手を引いて歩き出した。 先程まで漂っていた気まずい空気はいつの間にか消え去り、いつもの2人に戻っていた。

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