33 / 112
第33話 部屋の主。
然程大きくは無いが、一見して高級マンションと思しき建物を目にして、周は驚きの表情を浮かべる。
『えっ?此処?マジで?』
「うん。ほら、行くぞ。」
呆気にとられている周を尻目に、水無月は慣れた様子で正面玄関からエントランスホールに入って行った。周も急いで水無月の後に続く。受け付けを済ませると、2人はマンションのスタッフらしき人物にエレベーターの前まで案内された。エレベーターに乗り込み、水無月が行き先階のボタンを押す。
(10階…って事は…最上階に住んでるのかよ?!)
『なあ…聞いても良いか?』
「うん。何?」
『俺達は今、何処に向かっているんだ?』
「何処って…惠さんの部屋だけど?」
『惠さんって、居酒屋の店長の惠さんだよな?』
周の質問の意図が分からず、水無月は首を傾げる。
「そうだよ。お前、さっきから変な質問ばかりするな。」
『いやいや、質問したくもなるだろ。居酒屋の店長が何でこんな如何にも高級って感じのマンションに住んでるんだよ?しかも最上階って…』
周の問い掛けに水無月は納得した表情を浮かべて頷く。
「ああ、惠さんは確かに店長だけど、オーナーでもある。河泉の他にも何店舗か飲食店を経営してるんだよ。」
『え?俺達と3歳しか変わらないんだよな?』
「うん。あっ、着いたぞ。詳しく知りたかったら、俺じゃなくて本人に聞けよ。」
エレベーターを降りると通路には真紅色の重厚な絨毯が敷かれており、シャンデリアの仄かな明かりが通路を照らしていた。
『みー…』
「ん?」
『俺、今凄く場違いな場所に居る気がするんだけど。』
「ふふっ。俺も最初に来た時は驚いたよ。気にしなくて大丈夫だよ。」
そう言って、今度は水無月が周の手を引く。ドアの前に立ち水無月がチャイムを鳴らすと、「は〜い。」と軽快な声と共にドアが開き、部屋の主が顔を出した。
「惠さん、今晩は。」
「今晩は。お2人共どうぞ上がって下さい。」
惠は笑顔で2人を招き入れると、周に声を掛ける。
「松永さん。初めまして、葛西惠と申します。」
『……』
「松永さん?」
『え? あっ、すみません。凄く綺麗な人だなぁって思わず見惚れちゃって…みーも、めっちゃ可愛くてめっちゃ綺麗だけど、惠さんはなんつーか、大人の色気?みたいな…あれ?俺、何言ってるんだ?』
周が慌てふためく姿を見て、惠と水無月は堪らず声を上げて笑った。
ともだちにシェアしよう!