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第35話 天然。
「みー君、待ってたよ。」
「椿、久しぶりだね。試験期間終わったの?」
「うん。来週から、又、お店に出るよ。」
(勝って奴の彼女かな?綺麗な子だなぁ。)
『みー、大学の後輩ってこの子達?』
「うん。そう。」
『初めまして!小川 勝です。で、彼が一ノ瀬 椿。大学3年生でっす!』
「初めまして。一ノ瀬 椿です。」
『初めまして。松永 周です。来週から水無月と一緒に河泉の担当をさせてもらいます。』
(って…あれ?)
『勝君だっけ?今、隣に居る人の事、彼って言った?』
『はい。言いました。』
『彼女の間違えでしょ?』
『彼女?椿が?』
『うん。女性の事を普通彼とは言わないでしょ?』
『ああ、くくっ。椿、又女性と間違えられてるぞ。』
椿はニヤリと笑う勝を一瞥してから、苦笑する。
「あの、俺…男です。」
『ほえっ?男?マジかー!!』
大声で叫ぶ周の口元を水無月が手の平で覆う。
「周、失礼だぞ。椿、ごめんな。」
『うゔばぎぶん、ごべん。』
謝罪を述べるも、口を塞がれたままで言葉にならない。
「ふふっ。みー君、手を離してあげて、彼、苦しそうだよ。」
椿に言われ、水無月が渋々手を離すと、周は頭を掻きながら改めて謝罪した。
『椿君、ごめんな。』
「いえ、良く間違われるんで、気にしなくて大丈夫ですよ。」
椿が笑顔を向けてくれ、周は、ホッと胸を撫で下ろす。会話を耳にしていた他のスタッフ達も水無月達の元に集まって来た。
「周君って面白い人だね。」
「宜しく〜〜〜!」
スタッフの顔ぶれを見て周は首を傾げる。
「周さん。どうかしましたか?」
『惠さん。河泉って居酒屋ですよね?』
「ええ、そうですが。」
『いやぁ、美形ばっかだから、メンキャバかと思っちゃった。へへっ。』
「……」
一瞬の沈黙の後、大爆笑が起こったが、本人だけが、何故皆が笑っているのか理解出来ずに再び首を傾げた。
『みー、何で皆笑ってんの?俺、何か変な事言った?』
「お前の天然さは、ある種才能だな。」
『天然?俺の何処が?』
「くくっ。皆お前の事気に入ったってさ。」
『ふ〜ん。良く分からないけど、気に入ってもらえたなら良いや。皆んな宜しくね。』
周はニカッと笑いながらスタッフ達と握手を交わした。慰労会と言う名の飲み会は大いに盛り上がり、皆とすっかり打ち解けた周を、惠は笑顔で見つめていた。
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