38 / 112
第38話 淡い期待。
文月は仕事から帰ると、部屋の片付けを済ませた後に冷蔵庫を開いて明日の料理の材料をチェックした。
(明日は水無月に会う。彼がこの部屋に来るのはあの日以来だ。)
文月はソファーに腰を掛けると、水無月に言われた言葉を思い返していた。
友達だけど身体の関係も持つ。
お互い束縛はしない。
何方かに好きな人が出来る迄の期間限定のセフレ。
(身体は繋げられても心を通わせ合う事は出来ない、そう言われたのと同然。好きな男のセフレになるなんて、馬鹿げた話だと思った。それでも、彼の提案を受け入れた。セフレは所詮セフレ。恋人になるなんて有り得ない。良い友達でいると自分で決めた筈だったのに…身体を繋げていれば、いつかは心も受け入れてくれるかもしれない。)
そんな淡い期待が胸を掠めた。
(水無月の過去も気になる。今迄にどんな男と付き合って来たんだろうか?周との関係は?2人が只の友人関係だとは、どうしても思えない。)
1年以上も傍に居るというのに、互いを知らな過ぎた事に今更ながら気付き、自分の不甲斐なさに溜め息が出た。
立ち上がり、浴室に向かいシャワーを浴びると、気持ちを切り替えて、持ち帰って来た仕事の資料に目を通し始めた。2時間掛けて販売促進に必要なデータを纏め終えた文月は、一息つこうとビールを飲もうとした矢先に携帯電話の着信音が鳴り、表示された名前を見て通話を押した。
『もしもし。』
「あ。文月?久しぶりー。今、何処に居る?お酒飲んじゃってる?今夜泊めてくれない?」
電話に出た途端に矢継ぎ早やに話す相手に苦笑する。
『咲良。今、何時だと思ってるんだ?』
「んー。夜中?友達と飲んでたんだけど、その子彼氏から電話が来て私を置いて行っちゃったんだよねー。薄情だと思わない?」
『お前より、恋人と居る方が良いだろうな。そもそも、お前の家は此処から遠いだろ?迎えならアイツに頼めよ。』
「無理!今A駅に居るから、実家よりも文月のマンションの方が全然近いし、車で迎えに来て!」
『此処から2駅だろ?歩いて来いよ。』
「うら若き乙女を夜中に1人で歩かせるつもり?危ない目にあったらどーすんのよ!」
『うら若き乙女は夜中まで飲み歩いたりしねーよ。家には連絡したのか?』
「ちゃんとしたよ。ってか、ごちゃごちゃ言わずに迎えに来て!」
『ちっ。しょーがねーなー。泊めるのは構わないが明日の午前中には帰れよな。』
「はーい!文月大好きー!」
『いや、そんなんお前に言われても全然嬉しくねーし。今から迎えに行くから、駅のロータリーで待ってろ。」
「了解!じゃーねー。」
(話すだけ話して切りやがった…ったく、アイツは遠慮って言葉を知らねーのか。)
文月はボヤきながらも、玄関を出て車に乗り込むと、咲良が待つ駅まで車を走らせた。
ともだちにシェアしよう!