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第42話 言葉の刃。

咲良は深く呼吸をすると、再び口を開いた。 「私が中3でお兄ちゃん達が高3に進級して直ぐぐらいだったかな。風邪で具合が悪くなって早めに帰宅したら、玄関に靴が有ってお兄ちゃんが友達と学校サボったんだなって思って、素通りして自分の部屋に入ろうとしたら、お兄ちゃんの部屋のドアが少し開いてて…」 『うん。』 「部屋から…声が聞こえて来て…」 『声って?』 咲良は躊躇いがちに小さな声で呟いた。 「エッチする時の声…」 『ああ…』 「で、お兄ちゃんの部屋を開けたら、お兄ちゃんと先輩の好きな人がベッドの中に居て…」 (自分の兄と先輩の好きな人が…そんな場面を見てしまったら、かなりのショックだろうな。) 「汚らわしいとか、気持ち悪いとか、2人に酷い言葉投げつけてた。その日から、その人家に来なくなって、私はお兄ちゃんと話しをしなくなって、それから数ヶ月経った頃に、先輩とその人が一緒に居る所を偶然見かけて。」 『うん。』 「2人の後を尾けたの。」 『後を尾けた?』 「そう。2人が凄く楽しそうに家に入って行くのを見たら、頭に来ちゃって、気付いたらその人の家に乗り込んでた。」 『お前、其れは…』 咲良は何かに追い立てられる様に話し続けた。 「お兄ちゃんとセックスしてるだけじゃ足りない?今まで何人の男を誑かして来たの?どうせ先輩ともしてるんでしょ?お兄ちゃんと別れてよ!アンタなんかお兄ちゃんに相応しくない!2度と私達の前に顔見せないで!!そう言ったの…」 『お前…そんな酷い事を言ったのか?』 文月は思わず責める様な口調で咲良に尋ねたが、同時に自分が水無月に言った言葉を思い返していた。 お前ゲイか? 男が好きなのか? 俺は何人目の男なんだ? (咲良の話を聞いて分かった。俺は言葉の刃で水無月を傷付けたんだ。決して許されない事をしてしまったんだ。それなのに、身体繋げていれば、いつかは心を受け入れてもらえるかも知れないなんて期待までして、勘違いも甚だしいな…) 「うん。私、本当に酷い奴だよね。でも、それだけじゃなくて、言い終えた後に隣の部屋から出て来た人がいて…」 『誰だったんだ?』 「その人のお父さんも居たの。私が言った言葉全部聞かれてて、お父さんもその人も凄く悲しそうな顔してた…私、凄く居た堪れなくなって、その人の家から飛び出したの。」

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