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第46話 聞けなかった言葉。
水無月の様子に気付かないまま、2人は会話を続ける。周がもう片方の手も添えて、水無月の両手を包み込むと、彼の表情が幾らか和らいだ。
「これ迄の関係性が保てなくなるしな。」
『そもそも、お前誰かを本気で好きになった事有るのか?』
「無いなぁ…誰かと付き合うとかそーゆうの面倒臭い。寝たい時は後腐れ無い人とすれば良いし。」
『そんなの、寂しくないか?』
「別に…」
『お前には傍に寄り添ってくれる人が必要だと思う。其れに、好きな人が在るって、良いもんだぞ。』
「絶賛片想い中の勝には言われたく無いけどね。早く告白すれば良いじゃん。」
ワザと憎まれ口を叩いて、話題を逸らそうとする椿に、勝は真剣な表情で話し続けた。
『茶化すなよ。俺は真面目に言ってるんだ。』
「うん…お前が心配してくれてるって、分かってるよ。」
『もしも、恋人が出来たら、俺に真っ先に教えろよ。』
「そんな日は来ないと思うけど。そもそも、誰かを好きになるなんて有り得ないし。』
『いや、絶対に来る!』
「何で言い切れるのさ?」
『お前は逃げてるだけだ。誰かを愛する事が怖いだけだ。椿が本気にさえなれば、相手だって惚れるに決まってるさ!』
「勝、言ってて恥ずかしくない?」
勝は涙ぐみながら親友への思いを口にする。
『恥ずかしくなんかない!俺の本心だ!お前は幸せになるべきだ!』
「何でお前が泣くんだよ。」
『だって、だってさぁ…』
「お前、酔うと泣上戸になるのな。』
椿は、自分を大切に思ってくれている親友に心の中では感謝していた。だが、それを素直に面には出せず、苦笑した表情を浮かべて誤魔化した。
「勝、飲み過ぎだぞ。そろそろ帰ろう。」
『幸せになりたいって思えよ。独りで居ることに慣れちゃいけないんだ…』
「分かった。分かったから。もう帰ろう。」
勝は手の甲で涙を拭いながら椿を抱き締めた。
『約束だからな。』
「……」
椿は、言葉の代わりに勝を抱きしめ返した。
「お騒がせしてすみません。コイツ大分酔ってるんで、連れて帰ります。恵さん、ご馳走さまでした。」
「うん。気を付けてね。」
椿は3人に挨拶をして、勝の腕を肩で支えながら帰って行った。周はグラスを片づけ終えると、恵に声を掛けた。
『恵さん、みーも少し酔ってるみたいなので、俺達もそろそろ失礼します。』
「大丈夫ですか?」
『はい。駅のロータリーに行けばタクシー捕まると思うんで。明日、又連絡しますね。』
「はい、お待ちしてます。」
『みー、帰るぞ。立てるか?』
「うん。」
『ほらっ、手。』
「大丈夫だよ。」
『大丈夫じゃないから言ってんの。』
周は半ば強引に水無月の手を取り、自身の手と繋ぐと、恵に一礼し部屋を後にした。恵は静まり返ったリビングに腰を下ろすと、先程まで周が座って居た場所に視線を移した。
「明日…1人で居たくないのは、水無月さんと何か関係が有るんですか?」
まるで、其処に周が居るかの様に、彼に聞けなかった言葉を口にし、溜息を一つ漏らした。寝室へ向かおうと立ち上がると「サーサー」という水音を耳にし、窓辺から外を眺める。
広い部屋に独り、恵は、静かに降り続く雨をぼんやりと眺めていた…
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