48 / 112

第48話 繋がらない電話。

『みー…大丈夫か?』 『何が?』 『いや…何でも無い。』 「あ、タクシー来たよ。」 タクシーに乗り込みドライバーに住所を告げると車はゆっくりと走り出した。 (水無月の身体が震えている。きっと、雨だけの所為じゃない。) 必死に平静を装う水無月に掛ける言葉が見つからず、視線を前方に向けたまま、自身の手を彼の手の甲にそっと重ねた。タクシーを降り、部屋に着いてからも何事も無かった様な素振りを見せる水無月の姿に、周の胸は軋んだ。 「服。濡れちゃったね。」 『みー、風呂沸かして来るから、ちょっと待ってて。』 「うん。」 浴室に行き、湯貼りスイッチを押すと、脱衣所で文月に電話を掛けた。呼び出し音が鳴り、やがて留守番電話に切り変わる。何度も掛け続けたが、結果は同じ…暫くして浴室から風呂が沸いた事を知らせるメロディが流れて来た。周は文月への苛立ちや憤りを水無月に気取られない様、無理に口角を上げ、彼が居るリビングへと戻った。 『風呂沸いたぞー。』 「うん。」 『足、まだ痛むか?」 「もう大丈夫だよ。ありがとう。」 そう言って微笑む水無月。 『みー、あのさ…』 「風呂、入って来る。」 『ああ、、うん。温まって来い。』 水無月の後ろ姿を目で追いながら、遣る瀬無さが胸を這う。何もしてやれない自分が酷く無力に思えた。周は雨で濡れた服を手に取ると、水無月のジーンズに血痕が付着している事に気付いた。 (みーが風呂から出たら、膝を消毒しなきゃな。この家に救急セットとかは有るのか?) 服を洗濯機の中に放り込むと、リビングに戻り消毒液を探したが見当たらなかった。 (寝室も見てみるか。) 寝室に行き、引き出しに手を掛け、上から順に探し始める。3段目を引くと、中には封が切られていないコンドームの箱とローションが入っていた。周は全身の筋肉が硬化した様に、暫くの間その場から動く事が出来なかった。頭では理解したつもりでいた。だが、水無月と文月との行為を示唆する其れ等を目にした瞬間、言い様のない息苦しさを感じている自分が居た。 周は携帯電話を取り出して、再び文月の番号に掛けた。呼び出し音が耳元で虚しく響く…メッセージを入れる事はせずに電話を切ると、携帯の画面に時刻が表示され、水無月が浴室に行ってから既に1時間近く経過している事に気付く。漠然とした不安が胸を襲い、周は急いで浴室へと向かった。

ともだちにシェアしよう!