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第49話 理由(わけ)
『みー?大丈夫か?』
シャワーの流れる音が聞こえ、声を掛けたが返事が返って来ない。
『開けるぞ。』
浴室のドアを開けると、シャワーの下で蹲り、声を殺して泣いている水無月が在た。周は膝を屈めて水無月を胸元に引き寄せると、包み込む様に彼を抱き締めた。
『みー。』
「うっ…うぅ…俺。」
『うん。大丈夫、大丈夫だから。俺がお前の傍に在るから。』
「周…」
『部屋に戻ろう。このままじゃ風邪引いちまうぞ。』
「うん…」
浴室から出てバスタオルを手に取り、正面に立つと、愛しい人の裸体が周の視界を捉える。
『拭いても良いか?』
水無月は無言のまま頷き、周に身体を委ねた。きめ細やかな白い肌がほんのりとピンク色に染まっている…周は、喉の奥が枯渇し身体の中心に熱が篭るのを堪えながら、彼の濡れた肌をタオルで拭った。
『終わったよ。髪を乾かしてやるから、先に戻ってて。』
水無月が脱衣所から出ると、周はその場にずるずると座り込んだ。
凪と別れた後、みーは眠れなくなった。見知らぬ相手と寝ては、心も身体も疲れ果てて帰って来て、俺の隣でやっと眠りに就く。そんな日々が続いた。みーが崩れていくのを見ていられなかった。凪の代わりでも構わないって思った。誰にも触れさせたくなかった。自分に気持ちが向いていないって分かってても止められなかった。だから抱いた。何度も肌を重ねた。
俺以外と寝るのを止めてから水無月は眠れる様になった。其れから、暫く経ったある日、「周が傍に在てくれて幸せだよ…」照れ臭そうにポツリと呟いた水無月の笑顔を今でも覚えている。内心では嬉しくて舞い上がってたのに、『うん…』そう口に出すのがやっとだった。
一方で、凪の身代わりでしか無い自分が傍に居続けたら、水無月は前に進めない…そう思った。だから、アイツの幸せを願って、本心を隠したまま、あの言葉を告げた。
(それなのに…どうしてお前は泣いているんだ?こんな事になるなら、離れなければ良かった。ずっと傍に居れば良かった。自分の想いを伝えれば良かった。)
周は両手で顔を覆い、溢れ出る涙を必死に隠す事しか出来なかった…
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