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第50話 唇。
水無月は下着だけを身に付け、リビングのソファーに腰を下ろすと、煙草に火を付けた。雨音を耳にし、先程の情景が鮮明に脳裏に浮かぶ。彼女を傘下に引き入れ、自分の服を羽織らせた文月…腕を絡められ寄り添い歩く2人の後ろ姿は、とても自然で何の遜色も無かった。
もしも、俺が外で彼女と同じ様に文月に接したなら、周囲の人々は自分だけで無く、彼にまで好奇の目を向けるに違いない。男である自分と、女性である彼女との違いを思い知らされた気がした。あの女性との関係性は分からないが、文月にとって大切な人だという事だけは感じ取れた。
(2人はあれから何処に行ったのだろう。今も、2人は一緒に居るのだろうか。)
想像するだけで胸が締め付けられた。
(俺は文月の恋人にはなれない。友達でセックスするだけ。只、それだけ。だから、俺が文月の恋愛に口を挟む権利なんて何処にも有りはしない。)
「ははっ…」
涙が頬を伝い、乾いた笑いが口を突いて出る。
『みー…』
顔を上げると、肩を震わせ涙を流しながらも、自分に笑顔を見せようと無理に口元を上げている周が目の前に居た。水無月は両手を伸ばし、彼の頬にそっと這わす。
「どうして、周が泣いているの?」
『だって、お前が泣いているから…』
「ふふっ。変なの。」
『ははっ。変だよな。』
周は頬に這わされた水無月の手に自分の手を重ねた。瞬間、視線が合わさる。沈黙の中、高鳴る鼓動が激しく胸を打った。何方からとも無く距離が近付き、そして…互いの唇が触れた。
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