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第71話 キス…したい。

『水無月、ありがとな。』 「何でお礼?」 (水無月と会える。2人きりの時間を過ごせる。期待に胸を膨らませる一方で、もう、俺の元へは来てくれないかもしれない。傍に居る事すら叶わないかもしれない。そんな不安が拭い去れずにいた。だから、玄関口に立っているお前を目にした時、嬉しくて泣きそうになった。) 『さあな、何となく言いたかった。』 「ふふ。変な奴。」 文月は水無月の髪にそっと口付けし、彼を包み込んでいた自身の腕をゆっくりと解いた。 『さて、食事にするか。』 「うん。パスタこの前食べ損ねたから楽しみにしてたんだ。」 『え?』 「え?って何だよ。」 『あぁ、えっと…お前が楽しみにしててくれたなんて思ってなかったから、別のメニューに変更しちまった。』 文月は頭を掻きながらバツが悪そうに水無月に顔を向けた。 「そうなんだ。じゃあ、パスタは次の時にでも作ってくれる?」 水無月に上目遣いでお強請りをされ、文月の顔が綻ぶ。 『何か良いな。』 「何が?」 『次って言葉がさ、何か嬉しい。それって、水無月がまた俺の部屋に来てくれるって事だろ?』 「……」 『水無月?何で顔を隠してるんだ?』 「文月の所為だろ。」 『俺の所為って?』 「嬉しいとか平気で言うし…」 『うん。だって嬉しいし。』 「笑くぼとか見せんな。」 『へ?』 「そんな笑顔見せられたら、どうして良いか分からなくなる…」 (其れはこっちの台詞だ。そんな真っ赤な顔してそんな事言われたら、キス…したくなる…) 『水無月。』 「何だよ…」 『水無月、手を退けて。』 「嫌だ。」 『お前の顔、見たい。』 「嫌だって、んっんーーっ。」 水無月の手を掴み退かした。舌で彼の咥内攻めると、くちゅっ…くちゅっ…ぴちゃ…絡まる音が俺を甘く誘う。 (もっと欲しい…) 『はぁっ…水無月。』 「あっ…んん。待って、待って文月、駄目だ…」 水無月は文月の胸を押し遣り、俯いた。 『何で?俺とキスするのが嫌なのか?』 「違う。嫌じゃない。けど… 俺達先に話し合わなきゃ。」 (話し合わなきゃ…か。) 『そう…だったな。』 「ごめん。」 『いや、俺が悪かった。そうだな、今日はその為に来てくれたんだもんな。夕食を取り終えたらセフレの件を話し合おう。』 (そうだ。水無月が抱き締めるのを許してくれたからって、勘違いをしたら駄目だ。過度の期待はしちゃいけない。だって、俺達はセフレになるんだから…)

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