73 / 112

第73話 今夜…

(縦しんば彼が話してくれたとして、自分が受け止め切れない過去が有るとしたら?) 文月は水無月の全てを知りたいと思う反面、怖くも有った。 「文月。」 『ん?』 「セフレの事だけどさ、俺が言った条件覚えてるか?」 (いよいよか…) 『ああ。セフレになっても、お互い束縛はしない。何方かに好きな人が出来たら、友達に戻る。だったよな?』 「うん。」 『1つ確認したいんだが…』 「何?言って。」 『お互いに束縛はしないって事は、他の人とデートしたり、身体の関係になったとしても黙認するって事か?』 「うん。もし、文月が他の人と寝たとしても、俺達はセフレなんだからお前を責めたりしない。それに、報告もしなくて良い。」 『逆もまた然りって事だよな…水無月が他の男に抱かれても、俺には意見する権利が無いって意味に受け取って良いんだな?』 「そうだ。」 『……』 (俺にこれ以上踏み込むな。そう宣言されたも同然の条件。何の躊躇いも無く、線引きをする目の前の男は、本当に俺が知っている水無月なのか?外見は変わらないのに、まるで別の人と話をしているみたいだ。それとも…俺がお前の表面しか見ていなかっただけなのか?) 水無月のキッパリとした口調に迷いは感じられず、文月は戸惑いを禁じ得なかった。 「文月、今ならまだ引き返せる。セフレになりたくないなら、無理する必要は無いんだぞ。今まで通り友人として付き合っていけば良い。」 (そうだな。セフレになったらもう引き返せない。友人に戻れる保証も無い。そんなリスクを冒すぐらいなら、今まで通り友達として傍に居れば良いじゃないか。何も変わらないまま…ずっとこのままの関係…) 「やっぱり止めようか。」 『……』 「文月?」 (水無月に触れる事も叶わない関係。そんなの…出来る訳がない。例え、この恋が実らなかったとしても、傍に居られなくなる事になったとしても、何もせずに後悔するのだけは嫌だ。) 『いや。お前の条件を呑むよ。お互いに束縛しない。それで構わない。』 「分かった。他に何か要望は有るか?」 (要望か…お前の恋人になりたい。俺だけを見て欲しい。) 『何でも良いのか?』 「俺で出来る事なら。」 『じゃあ、先ず友達としての要望。』 「うん。」 『食事や買い物に行ったり映画を観たり、友達としてやって来た事を今まで通りして欲しい。』 「分かった。セフレとしては?」 『今は1つしか思い付かないけど、それでも良いか?』 「良いよ。何?」 『今夜…お前を抱きたい。』

ともだちにシェアしよう!