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第74話 警告音。
「…今夜?」
『うん。駄目か?』
「……」
今夜、抱かれるかもしれない。予想していた事とはいえ、文月の直球な言葉にたじろいでしまう。昨夜、文月と一緒に居た女性の存在も気掛かりだった。彼女と文月が想い合っているのならば、潔く身を引いた方が良い。しかしながら、他の人と寝ても報告しなくて良いと告げたばかりの自分が、舌の根も乾かぬ内に彼女との関係を尋ねる事なんて出来ない。
そして何より、文月が放った現実味を帯びた言葉を耳にした途端に、昨夜に周と紡いだ情事を思い起こされ、水無月はその事に酷く動揺した。
文月は水無月の動揺振りを見逃さなかった。
(水無月が視線を彷徨わせている。今夜、抱きたいなんて、性急過ぎたかな。もう少し、時間を掛けた方が良いのだろうか…そう言えば、昨夜遅くに周から電話が掛かって来たな。要件は何だったんだろう。水無月は知ってるのか?)
文月は水無月の返事を聞く前に、昨夜の一件が気になり出し、話を切り出した。
『あのさ…気になってる事が有って、先にその話をしても良いか?』
返事を躊躇っていた水無月は、彼の言葉にほっと息を吐いた。
「うん。良いよ。気になる事って何?」
『昨日、夜中に周から幾度も電話が掛かって来てさ。』
安堵したのも束の間、水無月の心中に緊張が走る。
「…それで?」
『今朝、着信に気が付いて折り返し電話を掛けたんだけど…』
文月の戸惑いを含んだ口調に、水無月の鼓動が早まる。
「周は…何て言ってた?」
『もう良いんだ。そう言った後に、今夜水無月と会うんだろ?って話を掏り替えられた。』
「そうか…」
『結局、聞けず仕舞いで通話を終えたけどさ。おかしいだろ?水無月は周から何か聞いていないか?』
(文月が疑問を抱くのは最もだ。でも…真夜中に女性と寄り添っていた場面を自分達が見てしまった事。周と俺が肌を重ねた事。何方も言えない。)
『水無月?』
「文月、セフレになる条件、呑んでくれたよね?」
(何故、今、その話を?水無月は何を言おうとしてるんだ?)
『ああ、セフレの条件と周が電話を掛けて来た事と関係でも有るのか?』
「うん。関係が有る。」
努めて明るい口調で水無月に尋ねるも、声が震えた。水無月に真っ直ぐな視線を向けられ、文月の頭の中で警告音が鳴り響く。
(駄目だ…これ以上は聞いちゃいけない。)
『…どういう事だ?』
「俺さ…昨日、他の人と寝たんだ。」
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