81 / 112

第81話 知り合い。

エントランスホールで無事に受け付けを済ませた周は、恵の居る10階に辿り着くと、一呼吸置いて玄関のチャイムを鳴らした。 「は〜い。」 『恵さん今晩は、お言葉に甘えて来ちゃいました。』 「周さん今晩は、お待ちしてました。どうぞ。」 『お邪魔しまーす。』 リビングに足を踏み入れると、昨夜訪れたばかりだというのに、2人きりの所為か室内がやたらと広く感じた。 (このマンション賃貸だよな。家賃すげー高そう。まさか購入…いや、いくら何でも無理だろ。けど、河泉の他にも何店舗か経営してるって、みーが言ってたしなぁ。) 「周さん?どうかしました?」 『いえ、このマンション広いし、立派だし、すげー高そうだなぁって。』 「え?」 (しまった!高そうは余計だった…) 「ふふっ。周さんは本当に正直な人ですね。しまった!って顔に書いてありますよ。」 『へへっ。バレちゃいました?あ、恵さん、食材買わなくて良いって言ってたから手ぶらで来ちゃいましたけど、夕食まだですよね?冷蔵庫に有る材料で適当に作っちゃって良いですか?』 「もう準備は整ってるので座って下さい。お気遣いありがとうございます。」 『え?ああ、はい。』 (あれ?恵さん料理出来ないって言ってたよな?) 「苦手なものが無いと良いんですが。」 恵に促されテーブルに視線を移すと、豪華な料理が並べてられており、周は目を見張った。 『え?この料理は一体…』 「今夜のメニューは、茄子とアンチョビのマリネ・鯛のソテー・ズッキーニのフリッタータ・豚肉とアサリの白ワイン煮です。」 『いやいや、そういう意味じゃなくて、恵さん、料理作れないんですよね?』 「ええ。」 『じゃあ、誰が作ったんですか?』 『え〜っと。知り合いがシェフを連れて来てくれました。』 (知り合い…と言ってしまったが、正直、彼の事を人に尋ねられると、どう答えたら良いのか分からない。) 『で、そのお知り合いの方は?』 「あ、もう帰りました。」 『へ?わざわざシェフまで連れて来て、料理が完成したら帰ったって事ですか?』 「まぁ、そうですね。」 『お店のスタッフの方とかですか。』 「いえ、そうでは無いんですが…」 『友達?』 「友達…なんですかね…」 (知り合い?友達?少なくとも、友達では無い。強いて言うならば、悪縁かな…) 徐々に歯切れの悪い口調になっていく恵に、これ以上余計な詮索はしない方が良さそうだと周は判断した。 『それにしても、豪華な食事ですね。俺、腹空かして来たんで、頂いて良いですか?』 「はい。どうぞ召し上がって下さい。」 周が料理に話を振ってくれ、恵はほっと息を吐いた。2人は向かい合わせに座ると、食事を取り始めた。

ともだちにシェアしよう!