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第83話 好きな花。

『はぁ〜っ。お腹一杯。すげ〜美味しかった。ご馳走様でした。』 2人分の食事を殆ど平らげた周は、後片付けを終えると、リビングのソファーに寝転がった。 「ふふっ。周さん、お酒飲みますか?あ…飲む?」 『うん!』 「日本酒だけ切らしちゃってるけど、ビール・ウィスキー・ワイン・カクテル…はちょっと待って、チェックしてみる。」 恵はキッチンに向かい、吊り戸棚の扉を開いた。 「うん。大体揃ってるかな…」 『此処に並んでるのってカクテルのベースになる酒?』 不意に背後から聞こえて来た声に、恵の全身から緊張が走る。 『ごめん。驚かせちゃった?』 「いえ…大丈夫…です。」 無理に口角を上げて振り向くと、心配そうに自分を見つめる周と視線が合い、自然と強張りが解けていった。 『本当に?』 「うん。少し、驚いただけだから。」 (落ち着け…今、目の前に在るのは、周さんだ。大丈夫…大丈夫…) 『それなら良いけど…恵さん?俺の顔に何か付いてる?』 「いえ…カクテル、飲みます?」 『恵さん作れるの?』 「スタンダードなものなら大体は作れるよ。料理は、からっきし駄目なんだけどね。お客様リクエストは御座いますか?」 恵が戯けた口調で尋ねると、周も調子を合わせた。 『う〜ん。カクテルは余り飲み慣れて無いから分からないな。でも折角だから、バーテンさん。俺に合いそうなカクテルを作って貰えますか?』 「畏まりました。では簡単なものを2種類程。お客様、此方にお掛け下さい。」 恵は笑顔を浮かべ、周をカウンター席へと案内し、ベースになるお酒を棚から下ろした。クレーム・ド・カシスとテキーラ・コアントロー(オレンジ風味のリキュール) そして、カットレモン・炭酸水・ライムジュースを用意すると、カウンターテーブルに並べていった。 「周さん、カクテル言葉ってご存知ですか?」 『花言葉みたいな?カクテルにも有るの?』 周と会話を交わしながら、ロンググラスにカットレモンを絞り氷を入れ、メジャーカップで測ったクレーム・ド・カシスを加えた後、バースプーンでカラカラと音を立てて掻き回す。 「ええ。カクテルにも有るんです。お酒の席で意中の人を口説く時に使われたりもしますね。」 『へぇ〜。知らなかった。まぁ、知ってても俺にはハードル高過ぎて無理だけど。花も…好きな花は有るけど、全然詳しく無いなぁ。』 「周さんの好きな花って何ですか?」 『…白い紫陽花の花。』

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