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第85話 マルガリータ。
カクテルグラスの縁をライムで濡らし、グラスを逆さにして塩を広げた器にそっと置くと、冷凍庫から氷を取り出した。
「けど…言われた事が無いなんて意外でした。」
『意外って?』
「上手く言えませんが、貴方には人を惹きつける魅力がある。会って間なしの私でもそう感じました。」
『うわぁ…恵さんの言葉、水無月にも聞かせたかったなぁ。あいつは俺の事を魅力的なんてカケラも思ってないから。』
「そんな事無いと思います。きっと水無月さんも口に出さないだけだと思いますよ。」
恵の本音を帯びた話し振りに、周は気恥ずかしさが混じった笑みを浮かべた。
氷を入れたシェイカーにメジャーカップでテキーラ・コアントロー・ライムジュースを流し入れ、シェイクをし終えると、冷えたグラスの縁にカットライム。中にはカクテルが注がれた。
彼の凛とした美しい所作に、周は思わず魅入ってしまった。
「どうぞ。」
『頂きます。』
喉が焼けるようなピリリとしたテキーラの刺激と、コアントローの柔らかいオレンジの香りがマッチし、最後にライムの爽快な酸味が口の中で広がった。
『さっきのより強いみたいだけど、このカクテルも後味がサッパリとしてて上手い。』
「マルガリータです。テキーラベースだから度数は高いですね。」
『これにもカクテル言葉が有るの?』
「無言の愛。」
『無言の愛…え?意味が分からないんだけど。』
「周さん、其のカクテルを飲み終えたら、リビングでワインでもどうですか?」
『え?ああ、良いですね。』
マルガリータを飲み終えてリビングへ移動した2人は、ソファーに腰を下ろした。
「バーテンダーは終了したので、此処からは普通に話しますね。とは言っても偶に敬語が混ざってしまうかも知れませんが。」
恵が苦笑しながら告げると、周もつられて笑顔になる。
『うん。分かった。それで…さっきの言葉だけど、どういう意味?』
「そのままの意味かな。もし、この話題が嫌なら止めるので言って下さいね。」
『う、うん。』
「周さんは水無月さんの事好きだよね?只の友人としてでは無く、それ以上の感情が有る。だけど、その想いを伝えてはいない。違う?」
恵の真剣な眼差しに、いつもの調子ではぐらかす事が出来ず、周はごくりと喉を上下させた。
『どうして…』
(昨日もそうだった。どうして、気が付かれたんだ?誤魔化せたと思っていたのに…)
「気付いたかって?」
『うん…』
『周さんを見ていて、そう感じただけなんですが、強いて言うなら…表情と目かな。』
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