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第86話 思いを馳せて。

『表情と目?』 「そう、水無月さんに向ける表情と彼を見つめる目が、深い愛情に満ちてる。」 恵の言葉に周の瞳が揺れる。 『彼を愛してるんですね。』 周はワインを口に含み喉奥を湿らせ、そっと息を吐いた。 『ははっ。参ったなぁ…うん。恵さんの言う通りだよ。』 「彼に想いを伝えないんですか?」 『伝えたよ。』 「え?じゃあ、水無月さんは周さんの想いを知ってるんですね。」 『どうかな…』 周の要領を得ない話し振りに、恵は首を傾げ困惑の色を浮かべる。 「伝えたのに、知ってるか分からない?どういう意味?」 『昨日の夜に告白したんだ。過去にも1度だけ。』 「昨夜…ですか?」 『告白したと言っても、水無月が寝てる時に言ったから。』 「そっか…なら気付いていないかも知れませんね。過去にも告白してるんですよね?」 『うん。11歳の時に一度だけ。アイツは忘れちゃったみたいだけどね…』 肩を竦め少し寂しげに笑う周の姿を見て、恵は切ない思いに駆られた。 (此の人は長い間1人の人だけを想い続けて来たんだ。只ひたすらに水無月さんだけを…) 「羨ましいな…」 『え?』 「いえ、何でも無いです。只の独り言です。」 『そう?』 「11歳の時はどんな風に告白したの?良かったら聞かせて下さい。」 『良いけど、、何の面白味も無いよ。』 「周さんの存在自体が面白いので、大丈夫ですよ。」 『え?俺ってそんな感じ?』 「ふふっ。冗談です。」 『ははっ。何だそりゃ。』 「周さん。」 『ん?』 「1人で抱え込むよりも、誰かに話した方が気が楽になる時も有りますよ。」 敢えて冗談めいた口調で話してくれる恵の心配りが周の胸に響いた。 『そうだね。じゃあ、恵さんに俺が初めて告白した時の話を聞いて貰おうかな。』 周は、グラスに残っていたワインを空にすると、縁側で彼等と過ごしたあの日に思いを馳せた。

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