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第87話 在りし日の思い出。
『水無月と俺は幼馴染で、幼い頃から、何処に行くにも何をするにもいつもアイツと一緒だった。両親が共働きだった俺は、水無月の家で過ごす事が多くて、おじさんもおばさんも、俺を息子のように可愛がってくれたんだ。』
恵は頷きながら、周の話に耳を傾けた。
『あの日は、水無月の11歳の誕生日で、ケーキを食べ終えた後に、皆んなで縁側に腰を下ろして花を眺めてたなぁ。』
「花ですか?」
『うん。梅雨時期になると、水無月の家の庭一面に紫陽花の花が咲いて、俺達はそれを眺めるのが好きでさ。』
「庭一面に紫陽花の花かぁ。素敵ですね。」
嬉しそうに話す周の隣で、庭に咲く紫陽花の花を想像し、恵の顔からも笑みが溢れる。
「その時に、おじさんがおばさんにプロポーズした時の話を俺達に聞かせてくれたんだ。」
周は愛しむように、在りし日の思い出を語り始めた…
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《13年前》
『母さんと交際していた頃に、俺は会社を辞めて独立したばかりでなぁ。金も無くて将来の見通しも全く立っていなかった。』
「そうだったわ。懐かしいわね。」
『でも、母さんは、文句一つ言わずに俺を支えてくれてな。俺は、この人を幸せにしたい!笑顔を見続けたい!って思ったんだ。』
「あらっ。初耳だわ。そんな風に想ってくれてたのね。」
『まあ…な…』
「父さん、母さんの事愛してるんだね。」
『こらっ。水無月、茶化すな。』
「へへっ。」
『それで?おじさん、それからどうしたの?』
「俺も聞きたい!」
『それから、俺は母さんと結婚する為に、しゃむにに働いて、この小さな庭付きの一軒家を建てた。そして母さんの大好きな紫陽花の花を植えて、美しく咲いた赤紫色の紫陽花をプレゼントして、その時にプロポーズをした。』
『ええーー!!』
「そんなキザな事したのーー!?」
「お前達、俺には似合わないって言いたいんだろ?」
『うん。』
「似合わない。」
2人が頷き肯定の意を示すと、水無月の父は苦笑いを浮かべた。
『ははっ。ハッキリ言うなよ。』
「それで?お母さんは何て返事したの?」
『おじさん、おばさんは何て言ったの?』
『何も言わなかった。』
「ふふっ。」
「え?断られたの?」
『おじさん、振られちゃったの?』
『そうじゃない。確かに母さんは何も言わなかったが、代わりに庭に咲いていた青色の紫陽花の花を一本手折って俺にプレゼントしてくれたのさ。あの時の母さんの笑顔は、とても美しかったなぁ。』
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