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第90話 彼女の笑顔。

「へ?」 『は?へ?とかしか言えねーのかよ。』 「いや、だって…」 『15年経っても、俺の傍にお前が居てくれたら、お前も俺と同じ気持ちだって思って良いよな?』 「俺、さっきお前と結婚しないって言ったぞ。」 『でも、15年後には結婚する気になってるかも知れないじゃんか。』 「なってないかも知れないじゃん。」 『その時は、そうだなぁ…赤色はおじさんで、青紫はおばさんが其々贈ったから、それなら俺は白だな。みーの好きな色だし、うん。其れが良いな。』 「話が見えないんだけど…」 『庭に咲いてるだろ?白い紫陽花の花の事だよ。』 そう言いながら、赤色・青紫色の間に咲いている、白い紫陽花の花を指差した。 「咲いてるけど…やっぱり話が見えない。」 『お前、鈍いなぁ…15年後、俺が正式にプロポーズのする時には、白い紫陽花の花をお前に贈るって言ってるんだよ。だから、その時に返事を聞かせてくれよな。』 「贈るって…俺ん家の庭に咲いてる花じゃん。」 『細かい事は気にすんなって!』 意義を唱える水無月の頭を撫でると、彼は、気恥ずかしさを隠す様に、ぷいっと外方を向いてしまった。 『おじさん、おばさん、15年後にもしも俺のプロポーズをみーが受け入れてくれたら、その時は、俺達の事許してくれる?』 「そうね。その時は貴方達の意思を尊重するわ。」 『おいっ!俺は賛成しないからな!』 「お父さん。今は賛成じゃないとしても、気持ちが変わるかもしれないわ。其れに、まだ先の話よ。この子達が大人になった時に結論を出せば良いんじゃない?」 『うん…まぁ、そうだが。』 母親に諭された子どもの様に、渋々頷いた。 「水無月だってそうよ。周ちゃんの事が好きなら、何も今すぐに答えを決めなくても良いんじゃない?それに、周ちゃんだって大人になったら貴方よりも好きな人が出来ちゃうかも知れないし。」 「周が、俺以外の人を好きに…」 「はいっ!じゃあ、この話はこれでお終い!続きは15年後にしましょ。皆んな、それで良いわね?」 『分かった分かった。全く…母さんには敵わないな。周、水無月、お前達もそれで良いな?』 「うん…」 『うん!おじさん、おばさん、ありがとう!』 『周、言っておくが、俺は許した訳じゃないぞ。』 『へへっ。おじさん、分かってるって!』 『ったく。調子良い奴だ。』 「皆んな聞き分けが良くて宜しい!」 『母さん、俺まで子ども扱いしないでくれよ。』 『ふふっ。」 瞼を閉じると、あの日の皆んなの笑い声と、今は亡き彼女の幸せそうな笑顔が鮮明に思い出され、周の頬を涙で濡らした。

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