91 / 112
第91話 想い毎。
恵は周の頬に手を添え涙をそっと拭った。
『ごめん…おばさんの事思い出したら、なんか…』
「水無月さんのお母さん、中学生の時にお亡くなりになったんでしたね。」
『うん…あれから暫くして病気で倒れてさ。みーと学校帰りに病院に足を運んでたなぁ。けど、俺達が中学生になって直ぐの頃に亡くなってしまった。』
「そうだったんですね。」
彼女の話をしながら、周の中で忘れていた記憶が蘇って来た。
『そう言えば…おばさんが入院中に、俺達が大人になったらプレゼントしたい物が有るって言ってたけど、結局何だったのか聞けなかったなぁ…』
「気になりますね。」
「うん。」
(プレゼントって何だったんだろう…)
「でも、プロポーズの話、水無月さんは本当に覚えていないの?」
『ん〜。あれから、あの日の話はしてないし、多分忘れてると思うよ。覚えてたとしても口に出さないなら、其れがあいつの返事って事だよ。』
「そうかなぁ…」
(水無月さんが、周さんに向ける表情と目にも、特別なものを感じたんだけど…其れが、勘違いで無かったとしても、自分が口を挟むべき問題じゃ無いよな…)
『其れに…みーには、今、好きな奴が居るし。』
「えっ!!水無月さんに好きな人?!相手は周さんじゃなくて?!」
『そう…だけど…ぷっ…くくっ』
「え?何で笑い?笑うところじゃ無いと思うけど。」
『そうだよね。でも、恵さんの余りの驚き様に、何か可笑しくなっちゃって…くくくっ。』
「はぁ…そうですか。」
(長年想い続けてる人に好きな人が居るなんて辛い状況の筈なのに、こうやって戯けて胸の内を隠してしまう。きっと水無月さんの前でもずっとこうして来たんだろうな。彼の幸せを一番に考えて、自分の本音を見せられないでいる…人と深く関わるのが苦手で、人様の色恋の相談なんて尚更…そんな自分ですら、応援したいと思ってしまう程、一途で不器用な人だ。)
『ごめん。怒っちゃった?』
「怒りましたよ。」
(少し不機嫌な顔見せると、途端にシュンとする。大人なんだか子どもなんだか…)
『ごめん…なさい…』
「許してあげるから、その代わりに、水無月さんの好きな人が居るって話、詳しく聞かせて下さい。それと…」
『あ、はい…それと…?』
「一瞬だけ、抱き締めさせて下さい。」
『は?だ、抱き締め…え?』
返事を待たずに周さんをそっと抱き締めた。
ほんの一時だけでも、水無月さんへの想い毎、彼を包んであげたくなったから…
ともだちにシェアしよう!