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第94話 余りに違う二人。
『ふぅ…思わず本音を吐いちゃったなぁ。好きな相手に告白すら出来ないクセに、何言ってんだって感じだけどね。』
周の告白を聞き終えて、恵はひっそりと微笑む。
「そんな事無いですよ。其処まで愛されている水無月さんが羨ましいな…其れに、私からすれば、貴方の事も羨ましいです。」
『羨ましい?どうして?』
「水無月さんの心が誰に向いているのか分からないけれど、彼にとっても、貴方は掛け替えの無い存在だと思います。どんな形であれ、お二人の間には互いを信頼し、慈しむ心が在るでしょ?」
否定も肯定もせず、静かに耳を傾けてくれる周に、恵は普段は余り面に出さない素の自分を垣間見せた。
「俺は…人と深く関わるのが苦手、と言うか避けてるってのが正しいかな。人と接する事が嫌いな訳じゃないんだ。けど…心から信頼する事が難しいし、自分の中に踏み込まれたく無いとも思ってしまう。臆病なだけなのかもね…」
恵は一呼吸置いて話しを続ける。
「貴方達二人を見て、自分達とは余りに違うって思ったんだ。俺は、誰かとそんな関係性を築く事は出来そうに無い…だから、尚更のこと周さんと水無月さんには幸せになって欲しいなぁって…」
自分達とは違う…その言葉で、恵も自分と同様に、誰かに対する胸の内を話してくれているのだと気付く。人と深く関わるのが苦手と言った恵が、自分を励ましてくれ、本音を吐露してくれた事に周は胸が熱くなった。
『恵さん、ありがとう。』
「いつか…彼に想いを告げる事が出来たら良いですね。」
『そうだね…そんな日が来たら良いなぁ。』
周が彼の言葉に素直に頷くと、恵は席を立ち、新しいワインとグラスを手にしてリビングへと戻って来た。
「さてと、周さんの熱烈な愛の告白も聞けた事だし、このワイン空けちゃいましょっ!」
『初めて見る赤ワインだな。名前読めないけど…高そう気がする。』
「DRCグラン・エジェソーです。知り合いに貰った物なので、値段は良く分かりません。」
『はぁ…』
口に含むと、ブルーベリーやカシスをコンポートしたような甘い味と香りが広がる。
(知り合いに貰ったって言ったけど、もしかしたら、今夜の豪華な料理を手配してくれた人なのかもな…)
恵の表情をみる限り、料理とワインを彼に贈ったのは同一人物だと見受けられたが、其の憶測を口にする事はせず、二口目のワインと共に飲み込んだ。
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