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第95話 視線の先。
互いに胸の内を明かした所為か、会話が弾み酒も進んだ。夜更け近くになり、恵は残りのワインをグラスに注ぐと、周の視線の先をチラリと追った。
「周さん。」
『はい?』
「このワインを飲み終えたら、お開きにしましょう。」
『え?何で?夜通し飲むんじゃないの?』
「今日、此処に来てから、何度も腕時計に目を落としてますよ。水無月さんの事が気になるんでしょ?」
恵から指摘され、自分が無意識の内に時間を気にして腕時計に目を遣っていた事に気付き、はっと顔を上げた。
『俺、そんなに見てた?』
「はい。見てました。私と朝まで飲みたいと思ってくれたのは嬉しいですが、其れは次回に取っておきましょう。」
『けど、俺が急いでマンションに帰っても意味ないよ。水無月はきっと、今夜戻っては来ない筈だから。』
「そう…そうかも知れないですね。だけど、例えそうだとしても、水無月さんの帰りを待っていたい。彼に会いたい。貴方の顔にはそう書いて有りますよ。勘違いだって思いたいならそれでも良いけど、俺が言ってる事、間違って無いでしょ?」
周は恵の言葉を確かめる様に、自身の頬にそろそろと手を這わす。心の奥を見透かされているというのに、不思議と嫌な気持ちにならず、寧ろホッとしている自分が在た。
『…恵さん。朝まで一緒に飲み明かすのはやっぱり次回で良いかな?俺、このワインを飲み終えたら帰るよ。』
「ふふっ。素直で宜しい。じゃあ、タクシー呼ぶから早く飲んじゃって!」
『え〜。最後の一杯なんだから、ゆっくり味わいたいんだけど。ってかさ、恵さんって、自分の事俺って言うんだね。』
周が何の気なしに言った言葉に、恵は目を見張った。
「え…?俺って言ってた?」
『言ってたよ。其れってマズイの?』
「う〜ん。歳上の人と接する機会が多いから、日頃から、言葉遣いを気を付ける様にしてるんだ。」
『そっかぁ、経営者だもんね。でも、友達の前では少し肩の力を抜いたら?ずっとそんなんじゃ疲れちゃうよ。』
「友達…?」
『うん。俺は勝手にそう思っちゃったけど、もしかして、俺と友達になるのが嫌とか?まぁ、三歳下だし頼りにならないかぁ。』
「いえ、そうじゃなくて、友達って思ってくれたんだなぁって…友達か…良いね。」
『へへっ。良かった。』
周が気恥ずかし気に笑うと、恵も表情を和ませた。
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