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第99話 優しくしないで…

マンションの少し手前でタクシーから降りた水無月は、遊歩道を歩きながら文月との会話を思い返していた。 (ずっと胸に秘めていた想いを文月に打ち明けてしまった。俺の一方的な愛…か。彼奴は少しでも俺の事を愛してくれていたのかな?) 「今更…悩んだって答えなんか決まってるのに、、疾(と)うに振られた筈だろ?」 足を停め苦笑混じりにかぶりを振ったが、視線は彷徨い独り言ちた唇が僅かに震える。 一呼吸置き再び歩みを進めると、後方から声が聞こえて来た。 『おーいっ!』 振り向かずとも、声の主が誰であるか直ぐに分かった。 『みー!待てよーー!!』 (今、お前の顔を見たら可笑しな事を口走ってしまいそうだ。頼むよ。ほんの束の間で良いんだ。1人にさせて欲しい…) 彼に気付いていない振りをして足を速めると、一昨日擦りむいた箇所に痛みが走り、水無月は堪え切れずその場に蹲る。 『みー!!大丈夫か!?』 自分の元へと駆け寄って来る足音…水無月は瞼を閉じ、心を落ち着かせてから、ゆっくりと顔を上げた。 「周。」 『膝が痛むのか?見せてみろ。』 「いや、大丈夫だよ。」 『大丈夫じゃないから蹲ってたんだろ?』 「平気だって!!」 パシッ… 差し伸べられた手を思わず叩いてしまった。 『みー?』 「あ…ごめん…本当にもう大丈夫だから。」 『そっか…うん。大丈夫なら良いけど、無理はするなよ。』 「何で?何が良いの?周はどうしていつもそうなんだ?俺が嫌な態度取ったんだから怒れよ!」 (何言ってんだ。こんなの只の八つ当たりだ。周は心配してくれているだけなのに…俺って本当に自分勝手な奴。けど、けどさ…これ以上優しくしないで…でないと俺は…) 『お前、様子が変だぞ。もしかして、文月と喧嘩でもしたのか?』 「……」 『水無月?』 「そんなんじゃないよ。ごめん、膝が痛くてちょっと苛ついちゃっただけ。」 『おんぶしてやろうか?』 「大丈夫。自分で歩けるよ。」 立ち上がり、彼の正面に立つと、水無月の視界が周の首筋を捉えた。

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