『…何？』 「…何となく。」 何となくで袖引っ張るとか止めてくれよ。決心が鈍る。 ちゅっ。 「…何でおデコにキス？」 『…何となく。』 何してんだ俺。 「何となくって何だよ。」 『みーが何となく俺を引き留めたから、俺も何となくデコチューしてみた。』 「誰かに見られたらどうするんだよ。」 『皆んなお昼食べに行ってるってみーが言ったんじゃん。』 「っつ。と、とにかく、悪ふざけ禁止！」 はぁ…ホント可愛い過ぎて参るよ。 拗ねて膨らんだ水無月の頬を突いて、ニカッと笑いかけると呆れられた。 気持ちがバレて気まずくなるぐらいだったら、いつもみたいに悪ふざけって思ってくれた方がマシだ。 傍に居られるなら其れで良いさ。 『頬っぺた膨らませて子どもみたいだな。』 「誰の所為だよ！」 『くくっ。はいはい、俺の所為だよな。腹減ったから行こうぜ。』 水無月の手を引き二人でエレベーターに向かうと扉が閉まる音がした。 「周…エレベーターが閉まったって事は、開いてたって事だよな？」 『誰も降りてこなかったから、押し間違えただけじゃないか？』 「見られてたら…」 『もしも、誰かに訊ねられたら俺に一方的にされたって言えよ。事実そうだし。』 「……」 『みー、返事は？』 「…うん。」 結局、昼食を取り終え会議が始まる時間になるまでキスの話しを持ち出してくる者は無く、ほっと息をついた。 俺が噂される分には構わないが、水無月には嫌な思いをして欲しくない。誰も居なかったとはいえ、軽率過ぎたな。気を付けよう。 気持ちを切り替え会議室へ赴くと、部長が見知らぬ人物と会話を交わしていた。 外部のお偉いさんじゃないよな。俺と歳が変わらない感じだもんな。 「松永君、来たか。」 『部長、遅くなって申し訳ありません。』 「我々が早く来てしまっただけだから、気にしなくて良いよ。久東君は一緒じゃないのかい？」 『水無…久東ですか？』 「ああ、そうか。久東君が会議に参加するのは次回からだったね。自分で別の仕事を頼んでおいて忘れるなんて、私も歳を取ったな。高峰さん、そんな訳でして…」 『ええ、構いませんよ。どうかお気になさらず。』 部長がやたらと恐縮してる。まさかこの人が…？ 『松永さん、初めまして、高峰楓雅(たかみね ふうが)と申します。及ばずながらプロジェクトに協力させて頂きます。宜しくお願い致します。』 立ち上がり笑顔で挨拶をしてくる長身の男に、慌てて挨拶を返す。 『初めまして、松永周と申します。宜しくお願い致します。』 『松永…周さん？』 『はい。松永周ですが…あ、名刺を』 胸ポケットから名刺を取り出すと、彼も同様に名刺を手渡して来た。 高峰グループって、大手企業だよな。 高峰楓雅…苗字がグループ名と同じだ。役職は…せ、せ、専務？！