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第104話 対話。

今迄は、個人経営の飲食店・レストラン・BAR・居酒屋・チェーン店等、幅が広く一括りに出来ない為、集客実践項目をクライアント店別に作成し提案していたのだが、今回のプロジェクトで新たな試みとして試験的に幾つかの店舗へ同時期に同項目を提供する事となった。 項目内容を二人一組でプレゼンし、皆に賛同を得た案を実践するのだが、水無月が不在の為、周はプレゼンを一人で行わなければならない。 いくら仕事が出来るとは言え、入社して二年目の彼がプレッシャーを感じるのは無理からぬ事だった。 (めっちゃ緊張するなぁ。けど、水無月と一緒に考えた案だ。採用されなかったとしても、彼奴の努力を無駄には出来ない。) 「松永君、お願いします。」 『は、はい。』 (声が上擦っちまった。焦るな。水無月もいつも通りやれば良いって言ってくれたし。) 『松永周と申します。久東水無月は次回の会議から参加させて頂く為、僭越ながら本社に異動し僅か数か月の新参者がプレゼンをさせて頂く運びとなりました。宜しくお願い致します。』 自虐的な挨拶で皆の笑いを誘い、周はホッと息を吐いた。 『本日提案させて頂くのは、契約店へ実践項目を提供する為参考にしている飲食モニター(覆面調査)の改善についてです。』 『共通の実践項目を提案する為のプレゼンですよ。会議の主旨から外れていませんか?』 『確かにそうですが、足並みを揃える上で、事前に解決しておかなければならない事柄だと思います。』 高峰が異議を唱えると、肯定しつつも臆する事なく自分の意見を述べる周に皆が驚く。 『…分かりました。話を続けて下さい。』 『チェーン店や支店を持っているお店では飲食モニターを外部の専門家に依頼する事が多いのですが、個人経営のお店ではコストが掛かり過ぎてしまう為、依頼が出来なかったり、サイト等で気軽に頼めるアルバイトの飲食モニター等で済ませてしまうケースも有り、統一性に欠けています。』 『具体的な改善案は?』 『飲食モニターを我々の部署で請け負うんです。』 『依頼料は?』 『勿論頂きます。但し、今回のプロジェクトに参加して下さる契約店には、外部の専門家に依頼している料金より大幅に下げた金額で請けます。弊社では、契約店の店内の雰囲気、接客レベルや料理を把握しており、モニター結果にも信憑性がある筈です。』 『成る程ね…貴社が請け負う事で、プロジェクトに参加してくれる店舗も増え、利益にも繋がる。参加店も高い依頼料を払わなくて済む上に、調査結果にも信憑性が有る。』 『はい。』 高峰と周の対話に口を挟める者は誰一人として居らず、室内には緊迫した空気が流れていた。

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