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同棲生活(side:斉藤先生)

 佐藤くんとの同棲生活は、毎日が幸せで夢のようだ。 (言うまでもないが『同棲』というのは俺の主観で、現実は単なる『同居』でしかない)  佐藤くんが毎日うちにいて、佐藤くんの「おはようございます」で一日が始まり、佐藤くんの「おやすみなさい」で一日が終わる。  それがどれほど素晴らしいことかは説明するまでもないだろう。  一緒に暮らしていると、毎日佐藤くんの色んな姿を見ることができる。  毎朝後頭部についている寝ぐせも、おいしいものを食べた時の笑顔も、仕事をしている時の真剣な顔も、ゲームに夢中になると首が右にかたむく癖も、どれもみんなかわいくて、俺はしょっちゅう萌え死にそうになっている。  一緒に暮らすようになっても、佐藤くんは相変わらず俺のファンでいてくれる。  俺があげた新刊の見本をリビングで読んでいる佐藤くんは、面白いとかハラハラするとか泣けそうとかいう感情が全部顔に出ていて、何よりもリアルなその反応に俺はグッときてしまった。  また佐藤くんがあんなふうにコロコロと表情を変えながら楽しんで読んでくれる作品を書きたいという思いは、自然と俺の作品の質を高めていて、先日書き上げた小説は編集者の反応も良かったので、また刷り上がった見本を佐藤くんに読んでもらうのが楽しみだ。  家事は平等に分担しているので、俺は毎日のように佐藤くんの手料理を食べることができる。  佐藤くんの作るご飯はいわゆる「おふくろの味」で、その素朴だが食べ飽きない優しい味に、俺は胃袋までがっちりつかまれてしまった。  逆に佐藤くんにとっては俺の見ばえだけはいい料理が新鮮だったようで、「おしゃれでおいしい」と喜んでくれて、自分にも教えて欲しいと言ってきた。  おかげで佐藤くんと2人で台所に立つことが増えたのはうれしいのだが、佐藤くんの作る素朴なご飯が好きな俺としては少々複雑だ。  家事を分担するということは、お互いがお互いの洗濯をするということでもある。  いや、俺だって最初はちゃんとそれぞれ自分の分は自分で洗濯するようにしていたのだ。  けれどある時、佐藤くんの方から「斉藤先生の分も一緒に洗っちゃっていいですか?」と言ってきたのだ。俺じゃなくて佐藤くんの方から!  それから何となく交代で2人分の洗濯物をまとめて洗うということになってしまい、佐藤くんが俺のパンツを洗い、俺が佐藤くんのパンツを洗うという事態になってしまった。  ……あ、いくら俺が佐藤くんパンツを洗っているからと言っても、誓って邪な目的に使ったりはしていないからな!  ただちょっと、佐藤くんのパンツは安いトランクスばかりだから、もっとはき心地のいいブランド物のビキニとかプレゼントしてあげたいなーとか思う程度である。  そんなふうに幸せな同棲生活ではあるが、悩みがないわけではない。  一番の問題はやはり、佐藤くんと一緒に暮らしていると、たびたび欲望が暴走しそうになることだ。  だいたい、湯上り姿の佐藤くんがヤバすぎるのだ。  温まってほんのり赤く色づいた頬も、濡れた髪がかかるきれいなうなじも、短めの指にきれいな爪が並んでいる素足も、どれもこれも俺に「今すぐ食べて」と言っているかのようにうまそうなのだ。  さらに俺が使っているのと同じ爽やか系のメンズボディソープを使っているのに、なぜか佐藤くんからは甘い香りがするので、本当にもう、誘ってるのかと勘違いしそうになってしまう。  まだ春なので佐藤くんが着てるのは薄手のスウェット上下だが、この先暑くなってきてTシャツ短パンとかになってきたら、欲望を抑えられるかどうか、正直自信がない。  暴走しないようにするためには発散した方がいいのはわかっているが、佐藤くんと出会ってからは佐藤くんのことで頭がいっぱいになっていて、他の男には全く性欲を感じなくなってしまったので、誰かと遊んで発散することもできない。  仕方なく佐藤くんがうちにいない時に自家発電して発散しているが、正直それだけでは足りていない。  とりあえず今のところは「佐藤くんは二次元」の呪文でなんとか乗り切ってはいるが、佐藤くんが薄着になるまでに、何かいい発散方法を見つけないとまずいとは思うのだが、なかなかいい方法がない、というのが今の現状だった。

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