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第11話

「進級、もとい、高等部入学おめでとうございます。高等部生徒会会長、慶光院吏音(けいこういんりおん)に代わり挨拶させていただきます。高等部生徒会副会長の大臣水華です。皆さん、お久しぶりですね」 やはり天下の大臣財閥の嫡男と言うべきだろうか。 その言葉の重さも違うし、まっすぐ伸びた背筋は、大きくない背格好を不思議と大きいものに見せる。 「またこの高等部で皆さんにお会いできたことをとても嬉しく思います。そして今回はこの時間を借りて皆さんを激励に来たことはもちろん、転校生を紹介するために来ました」 静寂が訪れる教室。 きょとんとする大臣先輩。 「あっ、もしかして言ってなかった?」 「えっ、だって、理事長が秘密にしとけって」 「……あの男」 クラス中が俺を見る。 「エエーーーーーーーッ」 「静かに!」 珍しくイライラしたような口調で大臣先輩がたしなめる。 すると教室は一瞬で静かになった。 「……情報が錯綜しており申し訳ないです。取りあえず、今日はもう転校生を紹介させていただきます。もうそこにいるので」 生唾を飲み込む音が所々から聞こえる。 もちろん俺も例外ではない。 一応履歴書ではその顔を見た。あどけなさが残る、少しばかりもっさりとした少年だったはずだ。 確か、例のダイヤモンドクレーターの奇跡と呼ばれたダイヤを発掘した少年だったか。 俺もアメリカにはよく行っていたが、ダイヤモンドを自力で掘るなんて発想はないし、なによりうちの着物に派手な装飾は似合わない。下品だ。掘るならもっと落ち着いためのうとかにしてくれ。 ……つまりダイヤモンドが発掘される以前は、曲がりなりにもふつうの子供だったということか。 あんな普通の子供が不良少年だと決めつける気はさらさらないが、万が一ということがある。 これ以上このクラスに不良が増えてたまるか……! めんどくせえ! 俺の警戒心は最高潮に高まっていた。 「高柳くん。どうぞ」 ドアを開けて、件の男、高柳潮が入っ 「あれ?」 「えっ?」 俺の声だけが響いた。 かと思ったら件の男も声をあげた。なんだこいつは。 件の男ではない、普通の、ただの伊達男が入ってきた。身長も高い。大臣先輩の横に並ぶが頭二つ分は高いだろうか。 もさい髪の毛は? あの狭い肩幅は? 「本日から1年A組の生徒として入学する、高柳潮くんです」 「えっ、あっ、はい。高柳潮です。転校生、あんまり来ないらしいですねここ。お騒がせしてすいません。何卒よろしくお願いします」 高柳は困ったようにはにかんだ。 その瞬間に何人かが、ハッ、と息を呑んだ音が聞こえた。 このレベルのイケメンなんか学園に腐るほどいるはずだった。だがこいつは何かが違うと俺の本能が告げている。 どちらかと言えば軟派な見た目を持つのに、こいつはなぜか確実に硬派だとわかる。それにこの完璧なまでのスタイル、うちの生徒会長に勝るとも劣らないスタイルの良さだ。そしてなによりこの、 「圧倒的、お兄ちゃん感……」 はっとした。 俺の口から出たのかと思ったその言葉はきっとクラス中の人間が思ったことだろう。 なんというか、こいつには一生敵わない気がした。 きっと何をしても許してくれるような、そんな包容力があるように感じ取れる。 「お兄ちゃん……?」 「……それはおいておいて、赤澤くん」 「確かに俺、弟いますけど…」 「赤澤くん」 「あっ、は、い」 「わかるけど、しっかりしてください」 うんうんと大臣先輩は頷いた。 「彼がこのクラスの学級委員長です」 「赤澤遼司郎(あかざわりょうしろう)です」 「あっ、よろしくお願いします」 「これから何かあったら彼に聞いてください。そろそろ僕も教室に戻らないといけないので、彼に引き継ぎます。いいですか、赤澤くん」 「はい。と言いますかあの、いいですか?」 「はい」 「……あの、証明写真を利用する場合は、直近1ヶ月以内のものにしたほうがいいかと…」 Side Ryoshiro End.

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