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第12話
俺が部屋に入った瞬間から、クラスの雰囲気がおかしい。
『君の席は、今空いてるあそこ、前にいるのは細尾だな。細尾』
『はい』
『あの男の後ろの席に座って』
『はっ、はい』
みかさんが教室に戻ると、委員長である赤澤くんによって俺に席が与えられた。
木製なんかじゃない。椅子も机もそこらへんの学校にあるようなものと違って、ローラーが付いている。
椅子に至ってはクッションまで付いていて、金が余るとこんなとこにまで金をかけるのか……と察してしまった。
クラスは40人ほどだろうか。
俺の中学とは大して変わらない感じだ。
ただ、やはりみんな俺のことを気にしてるみたいだ。すまんな、成金で。
そして、先程ざっとクラスメイトを観察したときに、このクラスの顔面偏差値がおかしいことに気づいた。
俺の審美眼は割としっかりしているはずだ。
なぜなら、宝石商の息子として長年宝石を纏う有名な芸能人を眺めていて、この人にはこれが合う、とか、この宝石はこの人じゃ映えない、とか、散々両親の代わりにアドバイスをしてきたからだ。任せてもらってかまわない。
そして、それを踏まえてもこのクラスのほとんどの人間が顔面偏差値が高いと思われる。
さらにその余裕とでもいうのだろうか、高貴な雰囲気と、おそらく自分に対する自信が彼らを輝かせている。
全員が高校1年生とは思えないほどの、見た目と人格の完成度が高いのは見て取れた。なんというか、言ってみれば宝石のようにきらきらした個性ががみんなにあるような気がした。
金剛学園は金持ち学校という印象しかなかったが、ついさっきイケメン金持ち学校という印象に変わったくらいだ。
世の中は実に不平等ですね!
でも、どれだけビジュアルが良くても、どれだけ教室を見回しても、やはり男しかいない。
これは確実に俺の高校生活は童貞で終わるだろうなと俺の本能が告げた。
いくらみかさんに男が男を抱く文化がこの学校に息づいてると言われても、やっぱり俺にはピンとこない。
さようなら、おれのセイシュン高校生活。
「高柳くん?」
「あおっ、はい」
「よかったー全然反応なかったから死んじゃったのかと」
「生きてます、大丈夫です」
「ならいいけど」
俺の目の前の席(俺の席は41人目の席で自動的にハブられ席だから横はいない)の細尾? くんはくすくすと笑っている。
「えっと……」
「あ、俺は細尾晴太(ほそおはれた)だよ」
「ごめん、あの、まだ頭がごちゃごちゃしてて…」
「初日だし、しょうがないよ。無理しないで行こう。ていうかもう次で学校終わりだよ」
「エーーーーッ」
「さっきの学級会の記憶ない?」
この細尾くんに俺は衝撃を受けた。
キラキラした笑顔を俺に向けてくれた優しい細尾くん。
髪の毛を特に染めてるとかいうわけでもなく、ただなんとなく、野球上手そうな印象以外は、フツウノヒトだった。
「すごくショミンテキ……! ……はっ」
そう言えばさっきの委員長の赤澤くん。彼を俺は見たことがあった。
テレビCMでだ。
彼は、創業400年オーバー、京都老舗の織物屋、ゐな藤(いなふじ)の長男だ。その顧客は政治家や芸能人、その他日本中の富豪にご贔屓にされてるうえ、海外セレブからも注文をもらっているらしい。正真正銘のお金持ちだ。
ゐな藤のテレビCMで彼を見たときは、まだ少年だったが、面影であの赤澤家のあの子供だとはっきりとわかった。
めっちゃイケメンじゃないか……とは思っていたが、イケメンは成長しても、間近で見てもイケメンだった。……めのうとか、シックな宝石を使った落ち着いたジュエリーを身につけてもらいたいとか思ったっけなあ。
あ、いや、細尾くんがイケメンではないというわけではないからね!!??
でも、その赤澤くんと比べると、やっぱり、細尾くんは庶民的な雰囲気を醸し出しているなーと。
おれが庶民的とこぼしてしまうと、細尾くんはきょとんとしていた。
ああああ、おれはなんて失礼なことを!!!
「えっよくわかったね!」
「エッ」
「やっぱり、わかっちゃうものなのかな?」
うーん、と首をひねって考え出す細尾くん。
「俺ね、特待生でこの学校に来てるんだ。だから本当にうちは普通の家庭。超庶民なの。実家はめちゃくちゃ遠いんだけどね」
目から鱗丸。
そんな制度この学校にあったのか。
と言うか特待生って、もしかしてこの子すごくないか?
「でもそっかー、やっぱりお金持ちの人はわかるよね。学校外だと俺金持ち扱いされるんだけど」
「いや、違う! 俺もこの間まで庶民だったから!! 悪い意味じゃないんだよ、」
「……? そうなの? ここあんまり外の情報入ってこなくて」
「多分それは関係なくて、俺、すんげえ成金で、だから本当にこの間まで公立中学校いたんだよ!」
「高柳くんが? ……あ、高柳って、あのダイヤモンドの?!」
「そうなんですぅ。俺が掘ったんです」
クラスが少しざわついた。
そうだよあのモサ男だよチビ助だよ。
……成長したけど。
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