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第17話

ざわつきさえ許されないような空気が漂い、先生達の焦ったような声が聞こえる。 俺は生徒会長と合った目を離せなかった。 どれくらいの時が経ったかわからなくなった頃、生徒会長はクラウンを鷲掴みにして、舞台上からひらりと舞い降りた。 黄色かった。そして周りから上がった声は黄色だった。確かに男しかいないはずなのに。 「おい吏音!」 「シーっ。また後でゆっくり」 「…っ」 一人の小柄な教師が諌めようとするが、生徒会長の一言で引き下がってしまった。 その間にも生徒会長はずんずんと、おそらく俺に向かって一直線に歩いてくる。 「ね、ねえ……会長、潮くんに向かって来てね? 気のせい?」 「……多分、気のせいじゃない。だって俺ずっと目が合ってるもん」 「……会長と一瞬でも目が合ったらその日1日は幸運が約束されるって言われとるんだけど……」 「ねえどうしよう、俺めっちゃ怖くて仕方ない。こんなに人と目が合ったことがない」 「俺だってこんなに会長と接近したことないわ……潮くん、生徒会長となんかあるって言ったけど…言霊って本当に存在するんやな……」 「千石くんすごすぎ……」 千石くんと会話していると俺の顔に影がかかる。 千石くんは顔を固めたまま、俺の目の前にいる人を目だけで追う。 あれっ俺の前って、人座ってなかったっけ。 ーーうわっ、全員席からはけてる。 しかも全員俺の目の前の人を崇め奉るような目で見てるし……。 「こっちを、向いてほしい」 こわばった声が俺の耳に届く。 そう言われたら俺も、生徒会長を見ないわけにはいかなかった。 「……やっぱり。本当に綺麗だ」 今にも消えそうなくらい苦しそうな顔な生徒会長がそこにはいた。苦しそうなはずなのに、やはり美しいんだなあ。 目の前にいる人は、本当に美人なんだと感じた。 「それに、なぜだろう、今僕は、君に服従のキスをしたくてたまらない」 「……は?」 言葉の意味を必死で噛み砕いているうちに、俺の頭に優しくクラウンが置かれる。 「……嘘、だら」 千石くんの声が耳に入る。 だが俺は生徒会長から目が離せない。そこにいるだけで美しいのは勿論だが、彼にははまるで生娘のような、そんな可愛らしい恥じらいを見た気がして。 俺の手を取る生徒会長。 「綺麗な指だね」 ごめんなさい、全然可愛らしくはないわ。 可愛らしい人はこんなに堂々と人の指を褒めない。 形のいい唇が、俺の左手薬指の付け根に寄せられる。 「えっ、いやあの、これ、俺にしても意味ないのではないですか……」 思わず言葉が漏れてしまいハッとした。 生徒会長は顔を上げてにこっと笑う。 「そうだね、僕にとっても初めてだ」 ーーー絶叫が講堂中に響いた。

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