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第18話
「ーーー著、金剛奈津緒」
ーーー俺はソファの上で、クラウンを外すことも忘れ打ち震えていた。
「まあ、宝石ってのはこういうものだ」
俺の頭にクラウンが乗せられてから、俺は生徒会長に連れられて理事長室に連行され、緊急会議が開かれていた職員室から奈津緒が出てくるのを待った。
「ってか慶光院、お前無計画なことすんな!」
「仕方ないだろ。俺よりふさわしい宝石を見つけてしまったんだから」
「あのなあ、どれだけの事務手続きがあるかわかってんだろお前……」
ちらりと俺を見る奈津緒。
「まあ、わからんこともないが」
「だろ!」
「あの、あなたはなんで俺の手を握ってるんですか……」
「そんなの理由が必要?」
「あっ、えっと、必要、ないですね……」
いやあるだろ俺、しっかりしろ……。
「と言ったところで、慶光院は潮に服従のキスをしてしまったからもう戻り用はないわけだが」
「服従のキス?」
「君潮って言うの? なんてことだ、この宝石にぴったりの名前だね」
「そっちですか……」
「ってお前、潮の名前も知らないのに次の宝石に任命したのか!?」
「えっ任命って確定ってこと!?」
「もちろん、だって彼顔変わりすぎじゃないか。あの転校生だなんて気付かなかったよ。だからこそこれは運命だ」
「あっ、抱きつくのは本当にやめてください……」
「はあ。まじかよ。身分もわかんないやつに服キスするとかぶっ飛びすぎだろ……」
「それは服従のキスの略語ですか……業界用語みたいですね……」
「ああ。服従のキスっていうのは相当やばくてな。宝石としての権限を今までもこれからも全て捧げてもいいから宝石にしたい人間にするものなんだわ」
「宝石の権限とは……?」
「まあ色々あるけど、端的に言えば今までの功績もこれからの宝石としての権利全てを捧げるってことよ。それだけ任期途中の宝石をほっぽり投げるっていうのは責任が重いんだわ」
「……」
「だからこいつが宝石だった事実は未来永劫抹消される」
生まれて初めての絶句をここで使ってしまった。
生徒会長を見ると、どエラいイケメンな顔のままうっとりとした眼差しで俺を見ている。
「この方、歴代でなかなかの指に入る宝石ですよね……」
「任期的には徳川将軍の子息に次ぐ長さだな」
「……」
「満了してたら、徳川の子息と同率タイで一位だったはずだ」
お父さんお母さん。俺は、今死にました。
なんということをしてしまったのでしょうか。いや、正確には何もしてないんですけど。
「いやでも潮、お前はヘタしなくても慶光院よりカリスマ性がある」
「僕はそこの下半身獣会長よりよっぽど高柳くんの方が宝石にふさわしいと感じました」
理事長室のドアが開き、みかさんと、その他数名が入ってくる。
「会議終わったか」
「はい。書類は持ってきました。校長から教師まで全員とは言えませんでしたが、賛成多数で議案が通りました。あとは理事長のサインだけです」
「全員賛成じゃなかったのかい?」
「生徒会長を懇意にしてる教師が反対していたと記憶しています」
「……ちょっと腕によりをかけて根回ししてくるね」
「いやいやいやいやいい、いい、いい!」
人を殺すかのような目ですっと立ち上がる生徒会長を死ぬ気で止める。
一体俺は転校初日に何をしてるのかと本気で思えてきた。
「どうかこれが夢であってくれ……」
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