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閑話

SIDE Ushio. ーーぼすっ 流れるように俺のベッドに倒れる。 今日はもう散々だ。 つい先ほど、広報の山下さんに案内されて寮にやってきた。 この学園の寮ははたから見ても都内のタワマンみたいだし、内装も豪華だ。 部屋も俺の住んでた家よりでかいんじゃないかってくらい広いのに、たった二人での相部屋らしい。 もともとこの部屋には一人が滞在していて、その人と俺が一緒になる。 本当はもっと家具とか、お風呂とか見学したいところだけど、正直そんな余裕がない。 ちなみに山下さんは一通り俺に寮を案内した後、また明日諸々の説明のために迎えに来ると言って部屋を去っていった。おれの顔面が死んでいたのを汲んでくれたのだろう。申し訳ない限りだ。 ちらりと窓を見るともう日も暮れて、空が綺麗なオレンジ色をしていた。窓の端っこには桜がちらつく。 今朝早く俺は東京から新幹線で家を出発し、色々な電車やバスを乗り継いでこの学校まできた。 今思えば、朝に見た両親の満面の笑顔が腹立つほど憎たらしいし、泣きながら俺を見送る弟の顔は思い返すだけで涙が出てくる。 親の顔は憎たらしいけど、なんだかんだ親から離れて暮らすのも楽しみだったはずだった。 こんなことになるなんて、母親に叩き起こされた時に想像できていただろうか。 金持ち学校ってのはあらかじめ聞いていたし、自分とは住む世界が違う人たちの中に入っていく覚悟もしていたけど、なんだかそれ以上の斜め上を行かれている気がする。 変な奴らの中でも、派手な奴らの後ろで俺なりの素朴な暮らしをしたいと思っていたんだよ。 それがどうだ。学校の派手な奴らに認められ、その中でも一番、スーパーウルトラグレートデリシャス派手な人に、お前を認めると言われ、俺がそのポストをもらってしまうと? しかも派手な奴らは自分勝手って相場が決まっているのに、この学園の人間はなぜか校則や権力のある生徒をを遵守し、信奉していて(少なくとも今のところ関わっている生徒は)、疑うことすらない。なんだよ、ここでするべきだろ、一揆とかさ、反乱の狼煙をあげるとかさ! 俺はあくまで庶民だ。庶民歴15年、人生のほとんどを庶民で過ごしていて、この学園の誰よりもきっと平凡だ。ただ、変なとこで引きが強くて、偶然ダイヤモンドを叩いただけじゃねーか。 俺が何をしたっていうんだ、俺はただ、このまま庶民でいたかったのに。平凡な人生でよかったのに。 神様、前世で俺が一体何をしたっていうんだ。 考えても考えてもこの学園のことが頭に入ってこない、でも一方で平凡な人はここで流されるのが妥当だよな……とも思い出していた。 だんだんと眠くなってくる。この布団の柔らかさは格別だ。 なんとかジャケットだけを脱ぎ捨てて、俺は眠りに落ちていく。 せめて今くらいは、平凡な夢を見たいものだ。 (あなたは前世で国を救い、幾度となく占領された国を、幾度となく甦らせた、英雄なのですよ) SIDE Ushio END.

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