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第4章 フェスティバル!(1)
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私立桃華学園の文化祭は、とても豪華だ。――って、体育祭の紹介でも全く同じことを言った気がするけれど、本当にそうなんだから仕方がない。何しろ、全国屈指のお坊ちゃま学校で、ナントカ財閥の息子やナントカ企業の次期社長なんていう生徒がごろごろいる。有名企業とのコネクションならば他の学校に負けることはなく、どうせならそれを有効活用しちゃいましょう、あわよくば将来に繋げるチャンスにしちゃいましょう、文化祭はそんなコンセプトで行われるため、非常に派手だ。十月の最終週に行われることが多いのだけれど、一般開放日の動員客数は軽く遊園地レベルだ。こんな離島にはるばるご苦労さま、とも思うけれど、まあ、来る価値はあると思う。豪華だから。
さて、そんな壮大な文化祭を誰が企画・運営するかというと。
「生徒会 なんだよねえ……」
机の上に積み上がった書類を見上げて、俺は深く重いため息を吐き出した。幾らやってもやっても終わりが見えないし、面倒ったらありゃしない。あーあー、去年は参加側で、他校の女の子に声を掛けて楽しんでたっていうのにー。
「ううう、もうやだよー」
「泣き言言うんじゃねえ」
「ダサいね」
「ダサいよ」
それぞれの部活や有志の団体からの企画書が山積みになっていて、コレはアリとかナシとか予算が幾らまでなら出せるとか、最終的には実行委員との会議で決まるけれど、一応生徒会の方でふるいにかけておかなければ見通しが立たない。みんなで手分けして目を通して、っていう作業は、骨が折れる。すっかりと気が抜けて、平良くんが用意してくれたお茶をストローでずるずる飲みながらぼやく俺に、容赦ないツッコミが三方向から飛んできた。
「読んでも読んでも終わらないじゃんー」
「今年は特に数が多いな」
「つうか剣菱くん関連の企画書多すぎ。許可取ってんの?」
剣菱日向と握手会、剣菱日向のメイド喫茶、剣菱日向の耳そうじ屋……もう何枚見たかわからない似たり寄ったりな文字に、ついその企画書を指で弾くと、同じように書類に目を通していた剣菱くんが、びくりと肩を竦めてからぶんぶんと大きく首を振った。
「し、知りませんー……!」
「一体誰がこんな堪らん企画を、いや剣菱を困らせる企画を」
「本音だだ漏れー」
副会長の鼻から赤い血が一筋零れそうになっているのを、平良くんがすかさずさっと拭き取った。GJ。
「案外副会長だったりしてー」
「何を言う。俺だったらもっと上手くやるに決まってるだろう。撮影所と称して剣菱とのツーショットを撮り放題にしたり、剣菱に着せ替え可能にしたり……」
ああ、妄想の世界に行ってしまわれた。
剣菱くんがさあっと青褪めているのも気にせず、平良くんが抑えているティッシュが赤く染まっている……。ううん。副会長をここまで狂わせる剣菱くん、恐るべし。
会議室の広い机の上、数えきれない書類が散乱している。可と不可を分け合って、可には無難な企画、不可には(主に剣菱くん関連の)不可能と思われる企画が積み重なっていった。大きな窓からは、すっかり藍色が濃くなった西日が差している。――そこで、俺ははっと気が付いた。
――この人たちが、ちゃんと、仕事してる……!?
なんということだ。
書類の選別に夢中で気が付くのが遅くなったが、確かに、生徒会が全員揃っている。しかも今日は途中でティータイムに入ることなく、剣菱くんを囲むこともなく、一人一人が、自分のノルマを達成しようと書類に向かっている。なんだろうこれ、奇跡?
夏休みが明けて暫く経って、最近はすっかり文化祭の準備に追われていて、そんなことを気付く暇もなかった。でも確かに、体育祭のときほど、追い詰められてはいない。そして、何より。
会長が、疲れていない。
目を細めて書類の文面を確かめ、ぽいぽいと可不可に分ける顔は、いつもの目付きの悪い会長だ。
うう、うれしい。
――俺は漸く、元祖チャラい男に戻れるってわけだ。
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