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第4章 フェスティバル!(2)
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――というわけで、やってきました放課後の繁華街。
昨日の書類選考が大きな山場っていうのもあって、会長に「今日なんか仕事ある?」と聞いたら、「会議の準備」と答えが返ってきた。「じゃあ俺遊んできていい?」「聞こえなかったか、会議の準備がある」「明日じゃダメ?」「一日でできんのか」「だって平良くんいるしー」「お前の仕事だ」「オッケーだいじょぶ、任せて任せてー。じゃ、行ってきます!」ってなやり取りの後、俺はるんるん気分で外に出た。まるで生徒会入りが決まる前みたいに浮足立って、繁華街へと辿り着いた。
そもそも、今まで俺があんだけ頑張ってたのがおかしいんだって。
数合わせ的に入れられた生徒会だし、俺がチャラいってのは周知の事実だしー。最初は毎日あんな感じだったわけだし、今日くらい久し振りにハメ外してもいーよね、うん。……え、言い訳ぐるしい? ま、まさか、そんなことないってば。ちくりと胸が痛んでるとかそんなことは断固ない、って、誰に向かって話してるのかわかんなくなってきたところで、ちらちらと見えてきた制服姿の女の子に、つい鼻の下が伸びる。
若者向けのアパレルやカフェ、カラオケなんかが並ぶ通り(そういえばこの辺り、体育祭の“ゴミ拾い”で使ったエリアだったっけ……)に出たら、紺色のセーラー服に身を包んだ二人の女子高生に気付く。前にナンパして引っかけて、ちょくちょく遊んでた子たちだ。
「はあーい、ひーさしぶりー」
と言って手を振って笑えば、女の子たちも俺に気付いた。黒髪のボブの子と、茶髪の巻き毛の子。おしとやかな白いセーラー服も、下に履いた紺色スカートは中身が見えそうなくらいに短い。太腿が眩しいです。
「うわ、流!? マジ久し振りじゃん、どしたのー?」
「いやあ地獄からの生還っていうか」
「意味わかんないうけるー」
だよねー、と楽しそうにけらけら笑う女の子に笑顔で頷く。俺も意味わかんない。
――ああ、久し振りだなあ、この感覚。
何だかしみじみと実感して、太陽の光も女の子の声も笑顔も眩しくて、それと同時に、今までの怒濤の日々が頭を流れてきた。そして過ぎるのが、会長の気難しい顔。ああ、これバレたらすげえ怒られんだろうなあ、なんて当たり前のことを考えてから、首を振る。
「ねえ、」
巻き毛の子の肩に片手を置いて、わざと顔を耳元へ近付けた。「なあに」と笑う声は丸い。嫌がる素振りがないのは、知ってる。
「この後遊ぼうよ、久し振りにさ」
「す、ずみやさん……?!」
ちょっと悪戯に女の子の長い髪に触れようとしたちょうどそのとき、知った声が俺の名を呼んだ。いーいとこだったのにー!
「え?」
俺より先に反応したのは巻き毛の子、その次にボブの子も驚いた顔をしている。
その視線の先には、“衝撃のあまり鞄を落としちゃいました”ってな体の、剣菱くん。わあお。
「――ッ、!」
弁解(するモンも何もないけど)の間もなく、大きな瞳を悲しげに歪めた剣菱くんは、だっと走り出してしまった。
「え、え?」
「なになに、なんかやばくない?」
女の子二人は、顔を見合わせて戸惑っている。繁華街の人混みへと、剣菱くんの姿はどんどん遠ざかって行く。
「流、追いかけてあげなよー」
「え!?」
「ていうか、流もやっぱホモだったんだ」
「やっぱってなに、ぜんっぜん違うから!!」
俺が好きなのは、女の子、です!!
含み笑いで言うボブの子に全身全霊で抗議をする。二人とも、悟りきったみたいな顔で手を振った。
「大丈夫大丈夫、あたしたちそういう偏見ないからー」
「むしろ応援するし? 超かわいー子だったじゃん!」
「いやいやいやいやいや」
「ほらほら、早く追いかけないと!」
「がんばってね! みんなに言っとくからー」
いやっ、超余計なお世話ー!!!
しかし、女子高生の勢いには勝てない。
なし崩しに俺は、剣菱くんを追いかけるために走り出すのだった。
くっそー、覚えてろよ……!
――誰に何を、かは全く謎な泣き言を心の中で叫びながら。
島の繁華街は、広い。高校生の利用者が多いのは勿論だけど、前も言ったように有名企業のご子息ご令嬢が通う高校があるということもあり、有名企業がこぞって店を出しているからだ。服から食べ物から雑貨から、ここまで出て来れば不自由することは何もない。カラオケだってあるし、休憩メインのホテルもある。生徒会に所属するまでは、ここで遊ぶのが唯一の楽しみで、男しかいない空間から逃げ出せるオアシスでもあった。俺と同じような考えのヤツも結構いて、平日の放課後の今でも賑わっている。人の合間を走って、剣菱くんの姿を探す。
――追いかけて、どうすんのかね。
女の子をナンパしてすみません、って? ……なんで?
つうか何故に剣菱くんがあんなにショックを受けるわけ?
ううう、わけが、わからないー。
大分追いかける気力が萎えてきた、そのときだった。
ビルの曲がり角の裏、大きな背丈の男前と、小さな背丈のかわいい子が向かい合っている。なんだただのホモか、と思ったけれど、どちらも見覚えのある影で、俺はついビルの壁の後ろに身を隠す。――なんで忍んでんの、俺。
「……、……」
「…………」
話し声は、聞こえない。
でも、剣菱くんが悲しそうで、その剣菱くんの頭を、会長の大きな手がぽんぽんと優しく撫でている。感極まったらしい剣菱くんが、わっ、と泣き出して、会長に抱きついた。わあ。見ていられなくて、壁に頭を預けた。
――なにこれなにこれ、なんなの。
混乱が混乱を呼ぶ俺の頭は、もう、考えるのを放棄した。大きく息を吐き出して、がしがしと髪をかき乱す。
――つまり、アレだ、これは。
――サボらず真面目に仕事しなさい、って、そういうことだ。
だって、サボった結果すっげえ疲れた。
ウン、わかってたんだ。
仕事はサボっちゃいけません、一生懸命やりましょー。
散々俺が思っていたことでした。
深く反省した俺は、二人の姿を振り返ることはなく、すごすごと学園に戻ることにした。
追いかけて慰めてあげなくちゃ、なんてかわいこちゃんズとの約束を反故にしてしまったのは、まあ、大目に見てほしい。
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