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第4章 フェスティバル!(3)

3  ――というわけで、次の日の放課後、俺は真面目に仕事をしています。  文化祭の予算会議に向けて、予算案の確認を電卓片手にパソコンに向かっている。窓から差し込んでいた西日の光が段々と弱くなり、空が藍色になり始めた。他の役員は、部長たちとの交渉や、会場の準備をしていて、今、生徒会室には俺と会長の二人きり。  ――気まずい。  すげー気まずい。  超気まずい。  昨日のおサボりの件は、今日顔を見合わせた後にたっぷりと厭味を言われた。手が出なかっただけマシだと思いたい。もう二度としませんごめんなさい、と殊勝に頭なんか下げてみたら、それ以上は言われなかったし。  でも、それからは、無言だ。  カタカタと二人分のパソコンを打ち込む音しか、聞こえない。  き、っまずい。  どうしても頭から離れない、抱き合う二人の図。  触れていいのかどうなのか、ちらりと会長を視線で窺うと、ばっちりと目が合ってしまった。わあ。 「なんだ」 「えっ」 「さっきからちらちらと」  う、気付いてましたか……、そりゃそうか。  はああ、と俺は深く重い溜息を吐き、一度パソコンから手を離した。ぐ、と伸びをして、椅子の背もたれに背中を預ける。 「会長さあー」  何でもないみたいに、いつもの声を意識して呼びかけた。 「最近、仲いーんすね」 「は?」 「剣菱くんと」  その名前を出すと、会長の眉が訝しげに寄る。相変わらず無愛想だ。 「俺、みーちゃった」 「何をだ」 「会長、剣菱くんを慰めるの巻」  視線を合わせて告げると、会長が面食らったように目を丸める。珍しい顔だ。 「ああ、あれは…………、いや」 「なんすか」 「なんでもない。無駄なこと話してねえで仕事しろ」  ぴしゃりと言われ、「はあい」と良い子の返事をするしかない。  ――否定しないんだ。  なんて、声に出す勇気もない俺です。  また、二人分のカタカタしか聞こえない空間に、息が詰まる思いをしながら、その日は仕事を終えた。  「会長も男が好きになっちゃうのかなあ」  ――部屋に戻って早々、ぽすりとベッドにダイブして、枕に顔を埋めて零した。今日も今日とて俺より先に部屋にいて、机に向かって何か描いていた雫が、その手を止めて「はあ?」と怪訝そうに俺を見下ろす。 「何かあったのか」 「いやー、べつにー」  俯せで柔い布団に埋まって首を振って誤魔化すけど、雫は椅子から立ち上がってベッドサイドに腰掛けてきた。俺を見下ろしてくるから、影が出来る。 「気になるだろ。……もしかして、会長が誰かとフラグが立ったのか!?」  ああ、食いついてきた。  剣菱くんが転校してきた直後のテンションで雫が言うから、「うっとうしいー」と片腕を上げてしっしとする。 「剣菱くんのこと撫でてたからー」 「は?」 「よしよし、ぎゅーって」  ちょっと盛ったけど、大体そんな感じだった。はず。うん。  さらにテンションを上げるかと思った雫は、何も言って来ない。  ちらりと視線を上げると、訝しげな顔をしていた。 「それだけかよ」 「だってあの会長がだよ、剣菱くんも何か、特別そうだったし」  そう言うと、雫の眉が寄る。え、なに。 「気になるのか」 「え」 「そんなに気になるのか、おまえ」  そう言う雫の顔は、今まで見たこともないような真剣な顔だった。  思わず、そろりと視線を逸らす。 「べ、べつに。そこまでじゃないよ」  急に喉が渇いてきて、唾を飲み込んだ。 「なんで真面目にきくの、変なの」 「いや、……悪い」  雫もふいと顔を逸らした。不意に手が伸びてきて、――いつもだったらここでわしゃわしゃ頭を撫でられるんだけど、今日はその手が空振りして、俺に触れることなく雫の元に戻って行った。……変なの。 「風呂、入って来いよ。疲れてんだろ?」 「うんー」  雫は俺の顔を見ずにそう言って、再び机に向かい出す。背中を向けるのは、もう話しかけるなの合図、かなー。  ひっそり息を吐いて、俺もゆっくり立ち上がった。  昨日今日の気まずさが全部全部、シャワーで洗い流せればいいのに。

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