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第4章 フェスティバル!(4)

4  文化祭の準備が、段々と本格化してきた。  文化祭は、クラス単位と部活単位、そして希望が通れば個人でも出店できる。生徒参加の企画は、生徒会や実行委員が取り仕切っている。その中でも毎年目玉の企画は、仮装コンテストだ。女装可。優勝者には、協賛企業からの豪華賞品があったり、本人にその気があれば芸能界デビューが待っていたりする。いつもは生徒会役員は裏方に徹する行事だけれど、今年はエントリー可になっていた。多分、剣菱くんに出て欲しいっていう要望がものすごく多かったのと、副会長の私情入れ込みまくりな判断の結果だろう。  あとは、きっと普通の高校の文化祭と似たような類いだ。男だらけのメイド執事喫茶、お化け屋敷、占いコーナー、出店、展示コーナー、などなど。ただし、クオリティは半端ない。業者を呼んで期間限定で内装までガラリと変えてしまうし、出す料理は有名シェフやパティシエ監修なんてのも珍しくない。特別ゲスト、なんて体ではなく、学園OBとして有名芸能人なんかもゴロゴロ来るっていうのもあって、文化祭の日の島は一年で一番賑わう。体育祭も中々だったけれど、それ以上だ。勿論、姉妹高である女子校の子たちもわんさか来る。(俺はそれが一番楽しみだったりしてー) 「あいっかわらずセンス抜群すね、部長ー」  久し振りに顔を出した手芸部は、文化祭の準備で大忙しだった。たくさんのマネキンには様々なジャンルの個性的な服が着せられていて、慌てて手直しをしている部員たちの姿が見える。  真ん中に据え置かれた、オレンジと黒が基調になっていて、切り刻まれたみたいに裾が不揃いの長いコートは、ハロウィンのジャックを意識しているデザインだ。一際目立っているその服の裾を摘まみながら俺が言うと、花田部長が上機嫌に笑う。 「あらあ、あいっかわらず上手いんだからあ。今の今まで一切顔を出さなかったこと、水に流してあげるわ」 「あっは、すんませーん……」  確かに、夏休みが明けてから、初めて部室に顔を出した。気まずさに堪え兼ねて視線を逸らすと、部長が含み笑いをする。首を傾げる仕草で、長い髪が揺れた。 「そうよう、すごーく怒ってるんだから。……で・も。コンテストに出てくれるんなら、許してあげる」 「へ?」 「その服、自信作なのよ。流ちゃんが著れば間違いナシだわ。ウチのファッションショーは勿論、そのまま、仮装コンテストにも出て頂戴。いいわよね?」  にっこり。  部長の満面の笑みを前に、首を横に振れるやつはいるのだろうか。――いたら、弟子入りしたい。マジで。  なし崩しにファッションショーのモデルと仮装コンテストへの出演を約束されてしまったのが俺だが、他の人たちも段々と忙しくなってきていた。  雫は所属している漫研で出す冊子のための原稿だとかで放課後は部屋に籠もりきり、クラス主催でのイケメン喫茶でもメインのウェイターを任されたとかで、準備時間も引っ張りだこになっていた。大変そうなのはわかるけど、疲れきったまんま俺のベッドに潜り込んで来るのは正直止めて欲しい。  会長は各種出し物の進捗状況や、物品の確認であちらこちらにと動き回っている。  副会長も剣菱くん関係の企画を隅から隅までチェックする傍らで、演劇部の演目のメインヒロイン役としての稽古もしているらしい。タフだ。すごくタフだ。  平良くんはクラスの出し物の、執事メイド喫茶の準備にかり出されている。勿論、執事役の方。  双子は最近、姿を見ない。きっと学園内をうろちょろしては、準備の最中に悪戯を仕掛けていたり、何気なく働いていたりするんだろう。  俺はというと、会長にくっついて色々回ったり、手芸部に寄って試着や微調整に付き合ったりしていた。  段々と出来上がってくる学園内の雰囲気に、柄にもなくわくわくしたのは内緒だ。――去年は、他校の女の子にしか興味なくて、どの企画にも参加しなかったから、余計に浮き足立つ気がする。もちろん、当日はナンパしかしてなかった。何事も準備が一番楽しいって聞くけど、その通りだな、なんて。真剣に最終確認をするみんなの姿を見て、しみじみ思う俺だった。たまにはいいね、女の子関係なく頑張るっていうのも。

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