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第5章 パーティ! (6)

6  きらきらとしたお城の中みたいな空間で、俺はぽつりと立っていた。不思議に思って周りを見ていたら、一人、二人と、着飾った人たちが現れる。それは男だったり女の子だったり、様々だけど、二人一組になったと思えば、くるくると回り始めた。  軽快なBGMに乗って、踊り出す人たち。なんだか楽しくなって俺も混ざりたくなったとき、手を差し伸べてくれる一つの影がある。  ふんわりと笑うかわいい子、の輪郭が、段々と朧気なものとなって、――最後には、……。  おかしいな、と思ったとき、身体がすごく重かった。 「――れ、なーがーれ」 「んん……ううん……」 「いい加減起きろよ、起きないと」 「ちゅーはやだあ、俺はーおんなのこがすきなのー」 「寝惚けてガチ拒否は割と凹むから勘弁しろ」  むぎぎ、と目の前に迫る影の顔を手で押し退けて言うと、聞き慣れた声が割とガチで凹んでいて、そこで漸くはっと目が覚めた。 「えっ、雫!?」 「起きたか、おはよう」 「お、おはよう」 「先行ってる、急げよ」  ぽん、と俺の頭を一撫でする雫は、いつもとどこか違っていた。  目を合わせることもなく、ベッドを下りて、部屋を出て行ってしまう。 「――変なの」  何だか胸の辺りがざわざわする俺も、きっと変だ。  段々と、ダンパの本番が近付いてくるにつれて、校内も賑やかになってくる。新聞部は本気を出して女子高の特集を組み、「今話題の子はこの子!」なんてアイドル雑誌顔負けのインタビュー記事や写真を載せている。  授業のカリキュラムにも組まれている重大なイベントだから、この時期の体育では、社交ダンスの踊り方が必須項目だ。  冬の体育館、ジャージに身を包んだ男子高生が、代わりばんこに男女の役を入れ替えて踊る光景は、中々にシュールだ。 「く、久遠くん、上手いね!?」 「そうか?」  今は、久遠くんが俺のペア。ちなみに、俺がエスコートをされる方だ。  自然な動きで手を取って、音楽に合わせて踊る姿は、かっこいい。これはモテるやつだ。 「久遠くん、去年モテモテだったんじゃないの」 「去年は丁度、入院してたな」 「あっ、ごめんね!?」 「いや、気にしてない」  でもきっと、一年の頃は引く手数多だったに違いない。  俺はというと、女の子役はどうも苦手で、ついステップがずれたり、最悪、足を踏んじゃったりする。久遠くん、ごめん……。 「まあ、初々しい方がいいだろ」 「いや俺女の子役しないからね!?」 「?」 「なんで不思議そうな顔してるの……」  久遠くんはたまに天然だ。  そこで音楽が切り替わり、また別なペアへと変わる。  段々と女役が板についてきた頃、先生が授業の終わりを知らせてきた。  うん、男としての経験値、今日は上がらなかったな!  ――次回の授業に、期待します。  そろそろ、準備も大詰めとなる。清楚ちゃんからは毎日のように連絡が来ていて、細かい部分の確認をしていた。その日も、授業が終わり、細々とした仕事を片付けに生徒会室へと向かっていたところ。最近はすっかりみんなちゃんと仕事をしてくれて、体育祭の頃のごたごたが懐かしくなるくらいだ。  生徒会室のドアを開いたところで、スマホが震える。画面には、清楚ちゃんの名前。 「もしも」 『すっ、す、すずみやさん~~~』  し、と言い切る前に、右耳いっぱいに高い声が響いてきて、思わず片眼を細めてスマホを遠ざけた。生徒会室にいる面々の視線が、一斉にこっちを向く。 「な、なに、どうしたの」 『たっ、た、たすけてくださいいぃ』 「落ち着いて」 『うっ、うう、予算が、予算があわないんですうぅ』 「えええ」 『いくら計算しても駄目で……どうしたらいいでしょうか……』 「ちょ、ちょっと待って、すぐ行くから!」  女の子を、泣かせたままにはしておけない。  スマホ越し、えぐえぐ聞こえる泣き声を宥めてから通話を切り、中央の椅子に座る会長の前へと走る。 「会長、俺ちょっと女子高行って来ます」 「ああ。気を付けて行けよ」 「あ、」  事の顛末は大体察したんだろう、会長はすぐに頷いてくれた。  うす、と敬礼してすぐ行こうとしたけど、ふと気付いて、一本の腕をがしっと掴んだ。 「平良くんも連れて行きます!」 「え」 「ほら行くよ、女の子が困ってるんだ」 「は、はい……?」  うちの自慢の会計監査を連れて行かないわけにはいかない。  戸惑う平良くんの腕を引っ張りながら、俺は生徒会室を出た。 「誤解されやすいのは」 「ああいうところだね」 「ああ、全くだな」  ――とは、俺が出て行った後、双子と会長が顔を見合わせてしていた話。

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