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第5章 パーティ! (10)

10  いつもより遅い時間に帰ったから、一応、同室者に気を遣って部屋をそうっと開ける。珍しく、部屋が暗い。  雫とは、こないだから、少し気まずい。  朝起こすのも、前みたいに足蹴にされる乱暴な起こし方が多くなった。(それでも起こしてくれるんだから、いいヤツには違いない) 「おかえり?」 「わっ」  てっきり寝ているか、部屋を出ていると思った雫の声が、出迎えてくれた。驚く。  二段ベッドの上から顔を覗かせて、ひらりと手を振るのは紛れもない、イケメンの幼馴染み。 「びっくりしたー、寝てると思った」 「寝ようと思ったんだよ」 「遅くなってごめんー」 「いや、何かあったのか?」  起きているなら遠慮する必要はない。電気を点けて、部屋を明るくする。  黒いスウェットの上下を着た雫が、二段ベッドから下りてきた。  制服のジャケットを脱ぎながら、俺は今日の出来事を話した。 「あー、やっぱりそうなるか」 「え?」 「あの子、お前に気がありそうだったもんな」 「え?!」  清楚ちゃんのくだりは話してないのに、ワケ知り顔で雫が頷くから、驚くしかない。どこまで察しがいいの、この男。 「で、どうなんだよ」 「うう」 「告白でもされたか」 「される前に逃げますよね」 「っふは、変わってねーなー!」  この男、爆笑である。  俺のベッドの縁に腰掛けて、足を叩いて笑っている。  幼馴染みには、何も隠せない……。  そういえば、小さい頃も、本気になった女の子から迫られる度、雫に助けてもらっていた気がする。 「気を付けねえと、本気で刺されるぞ」 「薙刀恐怖症だよね、もう」 「薙刀?」 「俺が刺されるとしたら死因は薙刀です」  なんだよそれ、と雫はまた笑う。  いや、笑い事じゃないんだって、あの殺気は……。 「雫はどうなの、あの、ヘアバンドちゃんと」 「すごく趣味が合う」  真顔で宣言された。 「よ、よかったね?」 「おう。今度イベント一緒に行くことになったわ」 「へえ、なんのイベント?」 「そりゃあ男同士がああしてこうしてる本ばっかりが売ってる」 「行ってらっしゃい楽しんで!」 「そういえば」 「うん?」 「俺と流の絡みを熱烈に期待されてるんだが」 「はいじゃあ俺風呂入ってくるから! 雫くん先に寝ててねーおやすみー」 「あっ、スルーかよ!」 「待たせてごめんね」  すくっとベッドから下りて風呂の準備をしながら、振り返って言うと、雫が瞬いた。 「いや、待ってねーし」 「あ、はい」 「流」 「ん?」 「無理すんなよ」 「え」 「お前すぐ顔に出るからなー」 「それさ、」 「ん?」 「雫だからわかるんだと思うよ」  割と、ポーカーフェイスには定評がある俺です。  やれやれと困ったように言う幼馴染みに、真顔で言ってみたら、今度は向こうが驚く番。  同じようにベッドから下りた雫が俺に近付いてきて、無言で、わしゃわしゃ頭を撫でてきた。 「わ、なに、なに!?」 「いや、……お前のそういうとこ、マジでずるいと思うわ」 「ほんと雫たまにすげー意味わかんない!」 「わかんなくて結構結構ー、ほら、温まって来い」 「行って来ますー」  風呂へ向かいながら、撫でられて乱れた髪を整える俺だ。  会長も雫も、人の頭を撫で過ぎだと思う。  まあ、嫌いじゃないからいいんだけど。  ――次の日の朝は、足蹴にされることはなかったけど、またやたら近い距離で起こされるようになった。  気まずいよりはいいよね、うん。  ダンス・パーティ本番まで、あと一週間。  随分と校内は騒がしくなって、まだ見ぬ出会いを期待して皆何処かそわそわしている。  女子高の生徒会とか実行委員とか、関係者も行き来するようになって、いよいよ本格的に準備が始まった。  俺たちも、放課後は準備に掛かりきりだ。  進行や計画を練り、印刷物を用意し、一般生徒に周知して……、ってな感じだけど、なんと、今回は、生徒会役員、全員やる気スイッチが入っている。  副会長は剣菱くんと踊ることを夢見て必死だし、双子は飄々と一般生徒に告知している。平良くんは相変わらず黙々と仕事をしてくれているし、剣菱くんは……一生懸命だ。たまに、女子高の顧問と難しい顔で話をしているのが気になる。修羅場かな?  会長は相変わらず眉間に皺を寄せているけれど、それだって無理をしている感じではない。金髪ちゃんとのやり取りに疲れている感はあるが、大丈夫そうだ。  ――うん、絶好調。  体育祭の頃には考えられないくらい、まとまっている。  会長の最後の仕事でもあるし、失敗はできない。  そしてあわよくば、このダンパ中に、次期生徒会会長候補を見つけて、スカウトせねば。  俺は俺で、密かな使命に燃えていた。  とにかく、成功させないと!

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